健康のための室内気候講座

Lesson 20 「気密」が必要な本当の理由は?

大和朝廷の北侵を阻んだのは、寒冷な気候と住文化の違い。

関東以北から北海道地方には、弥生時代以降も続縄文文化や擦文文化に属する 先住の人々が居住しており、大和朝廷成立後も関東以西とは異なる文化的な発 展を遂げていました。7世紀ごろから隋や朝鮮半島など周辺諸国との国際情勢 の変化により東北地方に対する朝廷勢力の進出が繰り返されたものの、11世紀 以降は先住豪族による統治と朝廷との連携が成立することになります。

では、なぜ北方域は中央政権の直接的支配下とはならなかったのでしょうか? そこには武力的な均衡の他に、寒冷な気候風土への社会的適応能力の低さが原 因としてあげられます。関東以西の蒸暑域では湿潤がもたらす生活への影響を 排除するために、住居には徹底した外部への開放が求められます。「家屋文鏡」 にも見られるように、竪穴式住居などの接地閉鎖系住居から、高床式の非接地 開放系住居への構法の変化が不可欠であったということでしょう。


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北海道に開放型住居を立てて暮らすと、どうなるのでしょう?

明治期の北海道には開拓使が置かれ、屯田兵制度が制定されました。北海道の 開拓と警備を担う人々が屯田兵に志願し移住することになります。彼らの住居 は復元され現在も後世にその姿を伝えていますが、下見板張りの外壁は冬でも 外気の侵入を無防備に促し、囲炉裏の火を生活の中心に据えつつ凍えるような 環境の中で春の到来を待ちわびていた姿は容易に想像することがでそうです。

一方、先住民族であるアイヌの人々の住宅は「チセ」と呼ばれますが、萱や笹 で拭かれた屋根、壁の空気密閉性能は板張りよりもかなり高く、必要換気量は 室内で燃焼させる薪の量に多く依存しています。屋根に積もった雪が解けない 程度に薪を燃やし土間を温めることで、厳寒期でも生存できる環境を創生する ことが可能でした。古より寒冷地に住む賢人たちの暮らしの知恵です。

気密化の技術が、壁体内結露による被害を防止した。

住宅の気密化が叫ばれるようになったのは比較的新しく、断熱強化を推進して いく過程で技術開発が行われました。不幸にも、断熱強化の過程で断熱層内の 結露問題が顕在化し、その対処法として防湿層の施工が推奨されることになり、 結果として気密化が推進されました。住宅の気密性能を測定して建築性能の一 つとして表示するようになったのはごく最近のことです。


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「気密」でなければ「計画換気」は実現できない。

しかし、気密化によってもたらされるものは内部結露の防止ばかりではありま せん。低温の隙間風が無秩序に室内に侵入することを抑え、快適性を向上させ ることができます。窓建具の目張りや隙間予防テープは不要となりました。

さらに重要なことは気密化で換気を計画的に実施することが可能になるという 視点です。どこから、どの程度の新鮮空気を室内に導入し、汚染された空気を どこから排出するのか。計画換気は室内の空気質を維持し健康で衛生的な環境 をつくるばかりでなく、温熱的な快適性を高めることに大きく貢献しています。 計画換気は隙間だらけの住宅では実現することができません。法的に義務付け られている換気の技術的基礎は、気密技術に依拠していると言えるのです。

気密性能が必要な本当の理由は「計画換気」の基礎となる技術だからです。


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室内気候研究所 主席研究員
工学博士
石戸谷 裕二
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Lesson 19 「断熱」が必要な本当の理由は?。

「断熱」の主目的は、エネルギー消費量の抑制なのでしょうか?

熱容量を無視すれば、壁を還流して流出(夏は流入)する熱量は壁の熱抵抗に 反比例しますから、熱抵抗を限りなく大きくすると流出熱量はゼロに近づくこ とになります。結果、冷暖房費を安上がりにすることができるわけです。
建築物の熱抵抗を大きくするには、性能の良い断熱材を、できるだけ厚く施工 する必要があります。でも断熱材を厚くするということは、それだけ床面積が 減ることにもなりますから、断熱材の厚さには自ずと限界がありそうです。
一方で、壁を還流して流れる熱量の計算は電卓さえあれば比較的簡単にできま すから、断熱材を厚くする費用と光熱費の低減量を比較して、対費用効果を数 値化することもできます。この計算が「断熱」の普及にも大きく貢献してきた のですが、「断熱」の本来の意味は光熱費を少なくすることなのでしょうか?

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無機系断熱材で最高の断熱性能を誇る 「シリカエアロゲル」の外貼り施工風景。


























不快で、不健康な環境は、表面温度の低さが原因になっている。

新築を検討している人が、最も改善したいと考えている住宅にまつわる問題は 「暑さ」「寒さ」「結露」が圧倒的な割合で上位を占めており、これら室内の 温熱環境に関連した苦情が未だに多いことは以前にも述べたとおりです。それ ではなぜこれらの問題が日本中の住宅に、広く蔓延っているのでしょうか?

それは断熱性能が不足していて、室内の表面温度が低いままに放置されている 住宅が、数え切れないほど存在していることに原因があります。室内の表面温 度は、サーモカメラがないと寒暖計では直接的に計測することができません。 これを簡単に図表から読み取ることができるよう、下図を用意しました。

室内外の温度差が 30°Cにもなる冬の寒い朝、一般的なペアガラス(U=3.0)の 表面温度は室空気温度より 10°Cも低くなることがわかります。これではガラス の表面に「結露」が生じて、カビの発生原因にもなってしまいます。そこで断 熱性能をトリプルガラス(U=1.0)にまで高めてあげると、表面温度の低下は 4.4°Cに抑えられますから、「結露」の危険性を除去することも可能になります。 もちろん体感温度も上がりますから「寒さ」の原因を取除くこともできます。


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温熱環境の質は「断熱」がカギを握っている。

機能を数値化して説明することを、「機能を見える化する」などということが あります。光熱費削減量の計算などはその典型的な例かもしれません。数量化 すると機能の比較が容易になり、効率的に設計が進められる利点もあります。

しかし「断熱」の本来の目的は、室内と外界を熱的に分離して「暑さ」「寒さ」 を室内から除去することにあります。「断熱」で健康・快適な暮らしを創生す ると、生活の「質」を向上させることができるのです。そして住宅の室内環境 の「質」のカギを握るのが「室内表面温度」なのです。「断熱」技術の出発点 は生活の「質」の向上にあることを改めて確認できればと思います。

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高級ホテルの窓で結露した水は 結露受けに溜まったままだった。





























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室内気候研究所 主席研究員
工学博士
石戸谷 裕二
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Lesson 18 窓の機能を再考してみよう。

窓の機能を建築学的に、もう一度整理してみることにしましょう。

以前にも述べたように窓は外界と室内環境をつなぐ、情報のフィルターの役割を担っています。窓は必要な外界の情報を、必要なぶんだけ透過して、室内に良質な刺激を与えてくれるのです。壁や床、屋根が外界の変化を遮断して、安心感を醸成するシェルターの役割を担っているのとは好対照です。

建築は「安心シェルター」、窓は自然を楽しむための「刺激フィルター」です。

室内に自然な光の変動を取り込み、朝、夕など相対的な時刻の差異を知らせてくれるのは窓の大切な機能です。発電所の管制室や地下鉄の運転席を想像してみてください。窓のない空間を無窓空間と言いますが、完全に自然と隔絶された環境で終日働いてくれる皆さんのご苦労には、頭が下がる思いです。

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熱や光、音や空気を透過させたり遮断することで、自然の変化を和らげ、健康・快適で能率的な室内気候を作ることは、「窓」の大切な役割です。

人工照明が発達して執務空間から窓までの距離がとても深くなった現代のオフィス。昼間から照明の下で仕事をしている人たちは、昼夜の別なく長時間労働を強いられることも多く、過度なストレスにさらされているのではないでしょうか?明るいうちは精一杯働き、夕方に薄暗くなってきたら休む。窓の機能の見直しは、現代人の働き方を見直すきっかけにもなろうかとも思います。

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(自然の変化を感じながら、創造的な活動を行う空間)

自然の中で働き、人工環境で休む。

人間に五感を生起させる感覚受容器は、自然界にある危険や脅威を事前に察知 して種の保存をはかるために発達して来たと言われています。科学の発達に伴 って、現代では感覚の退化が心配されるほどに自然界の危険が大幅に縮小され てきました。今後もこの傾向は強まっていくものと思います。

しかし自然環境では感覚を研ぎ澄まし、人工環境下では鎮静するという生物と しての本質が変化することはないでしょう。人工環境下における人間の活動が 高度化し、さらに長時間化している現代では、人間の生理学的な特性と心理学 的な容態に大きな乖離が見られるようです。

またサーカディアンリズムを維持することは、人間にとって健康を維持・増進 するために必要不可欠な条件です。古来より、日中は危険な屋外で採集や狩猟 によって生活の糧を獲得し、夜になったら安全な住処に戻って集団で過ごす。

洞窟遺跡の壁画を見ると、閉鎖された非自然空間は人間に安息を与えることで、 洞窟は祈りと芸術の場へと昇華したのではではないか。安らぎと活動。自然や 危険からの退避。建築が人間にもたらした影響の大きさを、改めて感じます。

一方で「窓」のデザインは建築のファサードを印象付ける大切な要素です。室 内条件からの要求性能と外部のデザインに整合性をもたせた建築は、誰がみて も美しいものです。つまり、窓設計の環境工学的なアプローチは単に熱や光、 空気といった物理的な要求を満たすために設計されると言うより、環境設計が 建築デザインそのものの基礎となっていると言っても過言ではありません。窓 は室内の要求を主張して、形状として外部へと表出しているわけです。

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(建築の表情は閉鎖と開放のリズミカルな変化に宿ります。)

室内に自然の穏やかな変化をデザインする。
建築の専門家は、窓の設計に託された大切な課題を忘れてはいけません。

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室内気候研究所 主席研究員
工学博士
石戸谷 裕二
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Lesson 17 日射を友として生きる知恵。

生きとし生けるものの活動の原点。全ての生命の母、太陽。

古来より、開口部とりわけ「窓」をどう作るかは建築技術の最大テーマです。高床式住居は日本の木造住宅に見られる梁柱構造の原形ですが、柱と柱の間をいかに埋めるのかが課題で、まどは「間戸」と呼称されてきました。風雨の影響を避け、人間や食物をいかに守るのか?が、「間戸」の主眼点と言えます。

一方で煉瓦や石積みのような組積造では、窓は「window」。風や光の通り道として、窓をいかに大きくできるかが建築技術の課題でした。窓を大きくすることは組積造建築技術者の夢であり、光庭や縦長の窓が一世を風靡した理由です。新古典主義全盛の時代のアメリカで、フランク・ロイド・ライトが日本建築にインスパイアされた理由も、このあたりに原因がありそうです。

一方で18世紀の欧州ではオランジェリーという温室の原形が大流行します。イタリアではルネッサンス期からオレンジやシトラスを通年栽培するために数々の工夫を凝らした温室が盛んに建造され、副次的に人々は冬の日差しを楽しむことができるようになります。そして1851年、ガラス建築はロンドン万博でクリスタル・パレス(水晶宮)として具象化され、人々を魅了していくのです。

ある時は日射を遮断し、ある時は十分に取り込んで暮らしに役立てるのか。

窓の設計の最適化は、建築がこの世に生まれてから絶えず人間に向けられてきた古くて新しい問いです。また、太陽光の強度は季節や時間によっても大きく変化するため、その利用には様々な工夫が必要なことは言うまでもありません。

冬の日射熱利用には熱容量の大きな土壁や漆喰を使って熱を蓄える「蓄熱」技術が用いられてきました。土蔵や蔵座敷の構法としてもよく知られています。この技術を現代風にアレンジしたのが潜熱蓄熱内装左官材。室内に取り込んだ日射を壁や天井に蓄えて、夜間の暖房に利用する手法です(写真1)。

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(写真1)日射熱を「蓄熱」してくれる潜熱蓄熱材を施工した室内
穏やかな室温変動は過剰な空気の乾燥を抑えて健康な環境をつくります

一方、皆さんも夏の暑さを凌ぐため葦簀(よしず)やすだれを利用したことがあるのではないでしょうか?開口部の外側に日射を遮蔽するための部材を設置すると、真夏でも涼しく過ごすことができます。古人の知恵です。

でも、日射熱を遮蔽しようとすると、室内がどうしても暗くなる。これを解決してくれるのが可視光拡散型の日射遮蔽材です(写真2)。和風の障子を思わせるような柔らかな光が室内へを差し込み、眩しさを感じずに夏の光を楽しむことできるわけです。バネ式のロールスクリーン・タイプですから収納やお手入れも簡単です。

女性の社会進出が進む現在社会では、天候の変化に合わせた遮蔽材の移動や保管が難しくなってきています。最新のIoT技術を駆使して、電動式の外付けブラインドをスマホで遠隔操作・監視するシステムも開発されています(写真3)。日々進化している建築技術を利用して、日射と上手にお付き合いしながら健康で快適な室内を作っていきたいものです。

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(写真2)耐候性の高い不織布を設置した開口部拡散された可視光が
     部屋の内部へと優しく差し込んできます。

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(写真3)最新の電動ブラインド
     スマートハウスとの連携も近い将来可能になるでしょう

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Lesson 16 消えた大屋根と庇。

春には軒先の縁側で、ぽかぽかと日差しを楽しむ。
夏は庇の下や、天井の高い土間玄関で、ひんやりと涼を得る。

伝統的な日本家屋が持つ四季折々の原風景も、進行する住宅地の都市化と敷地面積の狭小化によって、どこか遠い昔のおとぎ話へと変化してしまいました。

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<写真 首里城書院の間の縁側>

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<写真 シンガポールのハーバー地域にあるビル群>

太陽の恵みと強大な力を常に感じつつ、日射と仲良く暮らしていく住まい。四季の変化に対応した日射の調整は、窓の遮熱性能だけでは実現不可能です。深い庇、葦簀やすだれ、障子や鎧戸が果たしてきた役割を、現代の建築技術はどのような機構に置き換えていけば良いのでしょうか?

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<写真 屋内庭園を持つレストランの縁側>

常に変化する住まい手の要求。時事刻々と変化する自然環境。これらをつなぐのは、変化することができる建築以外にないような気がします。伝統的な家屋建築の知恵をもう一度見直しつつ、IoT技術なども活用しながら豊かで健康的な環境を創出していかなくてはならない時代です。

一つの技術で全てを解決するのではなく、使い方などソフトを含めた技術の総合化がこれからの住宅建築を支えていく鍵になりそうです。 

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<プレミアムパッシブハウスの建築化外構と庇>

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石戸谷 裕二
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Lesson 15 断熱材はどこまで厚くすれば良いのか?

壁からの熱損失を少なくすると省エネルギーになるので、断熱材は可能な限り 厚くするべきだ。だから断熱材が厚い方が「良い住宅」 だ。

一見正しく見える議論ですが、不毛とも言えるような「UA 値競争」が際限なく 繰り返されている現状は、健康住宅にとって本当に望ましい姿なのでしょうか。 もちろん断熱材を厚くするためには工事費用もかかりますので、自ずと限界が あります。それでは断熱材はどこまで厚くすれば良いのでしょうか?

理想的な将来像を予測するためには断熱技術の過去に立ち返り、その歴史を見 通すことで理解しようとする「帰納法的な歴史論考」が有用だと思います。

断熱技術が現在ほど発達していなかった 1970 年代以前の住宅。外界と室内と の熱的な境界線「断熱」層がありませんでしたから、室内の温度はほぼ外界と 同程度で推移することになります。外気温が終日零下となるような地域では、 囲炉裏や高温のストーブで暖をとるのが一般的でした。家の中で焚き火です。

ほんの 50 年ほど前の日本では、健康的な室内環境とは程遠い住環境が当たり前 でした。そして、環境弱者である子供たちや高齢者がいつもその犠牲者です。 日本の冬の暮らしを豊かで誇りあるものにしたい。「断熱」技術の先駆者達は、 理想の住環境を求めて技術開発とその普及に邁進することになります。

この普及を後押ししてくれたのが政府の施策です。1979 年(昭和 54 年)。二 次に亘るオイルショックを経験した資源小国日本は、住宅のエネルギー消費に 一定の歯止めをかけるために「省エネルギー法」を制定し消費の適正化を目指 します。ここから「断熱」技術が広く国民に認識されるようになるわけです。

当時の住宅はほぼ全てが伝統的な在来木質構法で建築されていましたので、 105mm の柱の間に断熱材を充填する方法が初めに開発されます。窓の建て具 がサッシュに取って代わられるようになったのも、ちょうどこのころからです。

その後、木質パネル工法が紹介されるとともに、断熱材の厚さをさらに増加さ せるために外貼り工法が開発され現在に至るわけです。壁の熱損失はニュート ンの冷却法則で簡単に説明でき、断熱材を無限大にすると伝熱量はゼロに近づ くことになりますから、これが UA 値競争に拍車をかけることになります。

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<壁の厚さが 600mm を超えるドイツの住宅の例>

トップランナーと呼ばれる建築業者が作る住宅では、壁の厚さが 600mm 以上 ということも今では珍しくありません。しかし、建築の構法や材料との整合性 を取ることを前提として「美しく建てる」ことも住宅設計ではとても大切です。

梁・柱構造が持っている軽快で清楚なデザインは、煉瓦や石造りの厚い壁が持 つ陰影や重厚感とは相容れないものです。また、日本の森林で生産される木材 から 600mm の壁を作ることは、持続可能性が低い解決策だとも言えます。

これらを解決するために必要な、新規のコンセプトが求められています。熱環 境性能を定常計算で容易に判断する時代から、「蓄熱性能」「遮熱性能」を含 めた動的な環境評価によって構法の最適化を図る時代への変化が必要です。

「断熱」性能の向上が目指していた健康環境の創出という原点に立ち返り、エネルギー消費との整合性にも配慮する姿勢が現在の建築技術者に求められてい るのです。「断熱」だけで全てが解決されると考えるのは、いささか単純すぎ て危険な方向へと住宅を導くことにならないか、危惧されるところです。

「断熱」「蓄熱」「遮熱」技術の融合と非定常状態での総合的理解は、健康的 で経済的に家族の安全・安心を守る新たな指標となろうとしているのです。

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Lesson 14 北緯38°は、北国なのか?

四季折々の変化や風光明媚な景観など、南北に長く広がる日本は、世界的にみても稀有な自然大国です。

しかし豊かな恵みを私たちに与えてくれる自然も、時として猛威となって人間を襲うことがありますから、安全な住処としての建築が不可欠であるということは言うまでもありません。それでは、日本の気候風土にあった住宅とは?そのために必要な建築技術とは一体どういうものなのでしょうか?

建築環境工学の分野では快適で豊かな暮らしを支える室内環境を、音・光・熱・空気・色などの物理法則に則って理解するところから研究を始めます。また、室内環境を整えるためには外界の気候をよく理解することも必要です。

外界気候で一番初めに気になるのは、やはり気温でしょうか。夏の暑さ、冬の寒さがどの程度なのかを把握しておくことは、住まいづくりの基本とも言えます。また、降水量や日照時間、季節風の影響も大切ですね。

しかし、地球上の全ての自然現象は、太陽から地球へと届く放射エネルギーが起源となっていることを忘れてはいけません。つまり、太陽エネルギーの地理的な分布状況と季節変動を把握することは、適切な室内気候を考える上でベースとなる情報です。太陽位置の予測が大切なのですね。

日本では東北・北海道地方を北日本、あるいは北国と呼びますが、その地理的な位置は地球上のどの地域と同等なのでしょうか?日本の地図をヨーロッパやアフリカの地図と重ねて見たのが下図です。

仙台市が位置する北緯38度付近はヨーロッパで言えばポルトガルのリスボンと同緯度と言うことがわかります。札幌もローマとミラノのほぼ中間であり、ドイツやスイス、北欧の諸国からみればとても南方に位置しています。つまり日本の北国の建築も日射の影響を強く考慮しながら住宅の環境づくりを考えていかなくてはいけないことは明らかです。

北日本、とりわけ冬の寒さが厳しい北海道の住宅を考えるとき、よく北欧やドイツの建築基準が参考として取り上げられます。しかし冬の日射熱取得がほとんど期待できない高緯度の地域では、外部への熱移動をいかに抑制するかに建築的配慮の主眼が置かれており、冬季の日射熱取得に関する配慮はほとんどされない、と言うことを忘れてはいけません。

日本で住宅を考えるときには季節に合わせた日射利用の最適化が不可欠であり、「断熱」に加えて「蓄熱」や「遮熱」の技術開発がとても大切になります。

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Lesson 13 暖房と冷房、エネルギーを消費するのはどっち?

「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。」

よく知られた吉田兼好の「徒然草」の一節は、住宅の環境創生に建築技術をど う落とし込むべきかに、多くの示唆を与えてくれます。開放系と閉鎖系の何が 日本の風土に適合しているのか、といった議論も過去には話題にも。

エアコンのなかった時代、盛夏の京都の蒸し暑さはよほど耐え難いものだった のかもしれません。さらに衣服の様式も現代とは大きく異なり、正装をしなく てはいけないような場合には、蒸し暑さを恨めしく思ったことでしょう。

高効率の冷・暖房用エアコンを容易に入手できる現代では、どのような建築を 旨とすれば良いのでしょうか?

この問いには一世帯あたりの冷・暖房エネルギーの使用量に関する研究結果が、 一つの方向性を与えてくれます。下図からもわかるように、那覇市以外の全て の県庁所在地で暖房エネルギー消費量は冷房を大きく上回り、住宅の空調エネ ルギー消費に占める暖房の割合は 80%を超過しています。

つまり省エネルギーのために「出るを制する」と考えれば、暖房消費量をいか に抑制するかが鍵になるということです。壁や窓の断熱性能を高め隙間風の侵 入をいかに抑制していくのか。「断熱」と「気密」が重要になるわけです。

しかし、これだけでは快適性と省エネルギーを両立させることはできません。

夏を快適に過ごすために工夫されてきた日本の民家の知恵を、現代の住宅にも 応用することがとても大切になります。気密化を十分に進め、隙間風を無くし て計画換気を可能にした住宅でも、風通しに関する配慮は欠かせません。

また、宅地の狭小化によって昔のように深い庇を設けることができない場合て
も、外付けのブラインドや日射遮蔽装置の設置によって、空調なしでも快適に 過ごせる期間を大きく拡張させることができるます。

「冬はいかなる所にも住まる」とは、創意工夫によって寒さは解決することが できるということです。「出アフリカ」以来、様々な社会的適応能力を身につ けてきた現代人にこそ、新たな住まい方の創生が求められているようです。

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Lesson 12 微弱な気流が「寒さ」の原因になる。

盛夏には一服の清涼感を醸し出してくれる「そよ風」も、冬の室内では「寒さ不快」の原因になります。

冬季の室内で生じる微弱気流はFig.1に示すように、「すきま風」「コールド・ドラフト」「換気・空調」によって生じることが知られています。気密性能を改善すると、室内から「すきま風」排除して不快を低減する効果があります。

また窓の断熱性能を上げると、ガラス面で生じる冷気流「コールド・ドラフト」を防止できます。U=1.0 [W/m2/K]以下のトリプルガラスを採用した住宅では、北海道でも冷気流を感じることはほとんどないでしょう。

一方で「換気」やエアコンなどの設備から吹き出される気流には十分な注意が必要になります。Fig.2に冷気流の速度と体感温度の低下の関係を、気流への暴露時間ごとにまとめて比較しました。

エアコンやFF式ストーブで生じる気流の速度は、およそ0.8[m/s]ほどです。この気流の中に3時間滞在すると、体感温度は6.5 ℃も低下してしまうのです。暖房設定温度の推奨値が20℃であるにもかかわらず、エアコンの設定を26℃以上にしなければ寒く感じてしまうのは、室内気流の影響ですね。

室内気流が生じない放射型の暖房では、体感温度の低下も1.5℃ほどですから、設定室温を22℃にしておけば十分な暖かさが得られます。つまり設定室温を低めに抑えても同じ暖房感が得られるのですから、放射暖房の方がエアコン暖房よりも経済的である、ということができます。

さらに、空気中の水蒸気量が同じであれば空気温度が低いほど相対湿度も高く維持できますので、喘息などの呼吸器疾患やアトピー性皮膚炎の発症予防にも効果的であると言えるでしょう。

冬の暖かさと省エネルギーには、暖房設備の選択も大切です。

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Lesson 11 生活で発生する水蒸気で、カシコク調湿。


冬の健康と相対湿度の関係について考えてきました。どうしても室内が乾燥し がちな冬。植物に水をあげて蒸散させたり、洗濯物を室内で乾燥させたり。 でも、暮らしの工夫だけでは、なかなか湿度は維持できないものです。

暮らしの中で発生する水蒸気の量は、1日 20 リットル!
2 リットルのペットボトルで10本分も発生する水蒸気を換気で排出せず、もっ と積極的に利用する方法なないのでしょうか。

健康生活のために必要な住宅の環境性能には断熱性能だけでなく、調湿する能 力もあります。古くから土蔵などの壁に使われてきた漆喰や、珪藻土などの天 然素材が湿度を調整する性能を持っていることは広く知られています。そして 建材が持つ調湿性能を客観的に評価する基準が、調湿性能判定基準です。

下の図をご覧ください。断熱材でできた2個の小箱の内側に、調湿建材とビニ ールクロスを各々貼り付けて、各々の調湿性能を比較してみました。箱の中に 茶碗1杯分のお湯を入れて、内部の相対湿度の変化を観察してみます。

赤の線が調湿建材、青の線が一般的に内装で使われているビニールクロスの箱 です。ビニールクロスは合成樹脂でできており、水分を吸収することができま せんから、茶碗を入れると同時に相対湿度が急上昇します。写真では見づらい のですが、箱の前面に設置した塩化ビニールの板には結露が発生。真菌、カビ、 ウイルス生育の原因にもなる、相対湿度 60%以上の環境となってしまいました。

一方、調湿建材を貼り付けた箱では設置直後に相対湿度がやや上昇しますが、 その水蒸気を壁が自然に吸収。機械的な制御をすることなく、人間の快適範囲 である40から60%の環境に整えてくれます。自然の摂理の不思議さです。

蓄えられた水蒸気は、室内が乾燥してくる日中に壁から放散されて湿度を調整 してくれます。安定した湿度環境を、機械を使わずに、上手に調整してくれるのです。加湿器の使用で懸念される水蒸気過多による結露の被害も、調湿建材 なら心配はいりません。もちろん電気代もフリーですね。

手入れの容易さ、経済性、施工の手間の簡略化など、生活者ではなく施工側の 都合で徐々に排除されてきた土壁が持つ機能。便利さの追及で、機械に頼らな い生活が、どんどん手の届かないところへと追いやられていませんか?

古くからの生活の知恵を現代に生かす。最先端技術の調湿建材には大きな可能 性があります。健康環境を考えるとき、まず初めに「断熱」のお話をしてきま したが、その他にも「調湿」など大切な環境調整の性能がまだあるようです。

機械やエネルギーに頼ることなく、自然の摂理を利用して健康を守る。
持続可能性を高めるためにも、考慮すべきコンセプトではないでしょうか。

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Lesson 10 風邪の予防には、上手な湿度維持が有効?


冬の4大死亡原因の一つとして恐れられている呼吸器系の疾患「肺炎」を引き起こすこともある風邪。健康の大敵「インフルエンザ」は戦争の勝敗にも影響しかねないという史実が語源だと言われています。
風邪の予防には原因となるウイルスや細菌に対する正確な知識が不可欠です。

冬になると急に増加するインフルエンザの患者さん。その原因はインフルエンザ・ウイルスが喉や鼻の粘膜に付着して人間の細胞に侵入することです。細胞を宿主として次第に体内で増殖し、発熱や咳などの辛い症状を引き起こします。

それではインフルエンザ・ウイルスは、どうして冬に増殖するのでしょうか?
下図に示したように、室内の相対湿度が40%を下回るとウイルスの増殖に好適な環境となり、人間の細胞はウイルスに感染しやすくなります。

室温維持のため暖房を使うと室温が上昇し、湿度は相対的に低下していきます。高断熱住宅の実測調査でも日中の室温が日射の影響で30℃以上に上がり、相対湿度は20%に低下する事例が報告されています。

アトピー性皮膚炎、喘息などのアレルギー性の疾患も、相対湿度40%以下の環境で発現頻度が急激に上昇します。そこで量販店の冬の定番商品、加湿器の出番となるわけです。

でも低断熱の住宅で加湿器を使用することは、本当に健康的なのでしょうか?
過剰な加湿が、新たな健康リスクを生じさせることに注意です!

これまでに何度か説明してきましたが、断熱性の低い家では窓ガラスや壁の表面温度がとても低く、冷たくなります。加湿をしない状況でも結露が生じている住宅では、加湿により重大な健康被害が生じる可能性があります。

結露は住宅や家具を傷めてしまうばかりでなく、カビや細菌の温床ともなりかねないのです。土壁などの伝統的な内装構法には空気中の水蒸気を蓄えて、調整する能力がありますが、現在最も普及している樹脂系の内装材「ビニールクロス」は、水蒸気を貯めておく機能がありません。一般的な家庭では、炊事や入浴、洗濯物の乾燥などで一日に20リットルもの水蒸気が発生しています

が、水蒸気を貯めておく能力がない現代の住宅では、換気によって水蒸気は室外へと排出されてしまい、室内にとどめておくことができません。

乾燥や結露による細菌の繁殖を防止し、風邪の原因を室内から排除するには?
最も有効な対策は「断熱」! そして調湿性能を持った建材の使用です。

加湿器や乾燥機の使用で健康環境を維持しようとする前に、新築時に断熱を十分強化して室内の表面温度を高く保ち、自然素材の調湿建材を採用することで、室内に発生した水蒸気を上手に利用して風邪を予防しましょう。

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室内気候研究所 主席研究員
工学博士
石戸谷 裕二
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Lesson  足裏の温度が、健康リスクの目安に。


断熱不足による浴室の室温低下が、冬季の CPA 発生の引き金に!

「断熱」によって家の中に冬の寒さを入り込ませない。浴室からヒートショッ クを排除することは、冬季の健康法の第一条件です。

それでは、室温が維持されていれば本当に CPA は発生しないのでしょうか?
今回は、以外に見落とされている CAP の発生原因について考えてみましょう。

人間は代謝によって体内で産熱し、これを外部に放散することで体温を維持し ています。今回は、足裏で生じる熱の移動に着目します。

同じ温度の物体でも種類(熱伝導率)が違うと、暖かさには違いがあります。 木製デスクがスティールデスクより接触した時に暖かく感じられるのは、木の 熱伝導率(熱の伝わりやすさ)が金属よりも小さいからです。
「木のぬくもり」の物理学的な説明にもなっていますね。

入浴時に脱衣室で裸足になった時、足裏からの熱の伝わり易さは床の仕上げ材 料によって異なります。下図でもわかるように、天然の石やタイル、コンクリ ートではカーペットの 10 倍以上の熱が足裏から急速に奪われます。
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人間の足裏温度は通常 27°Cに保たれていますが、これが 24°Cになると血圧が 30 から 60mmHg も急上昇します。冷たい床によって足裏温度が 24°C以下に なる状況は、CPA 発生の危険信号と言えるでしょう!

床の断熱が施され室温が十分に確保されている状態で、床に直接足を接触させ た時の足裏温度と床の材料との関係を計算した結果が下の図です。

浴室の床材として使用されることの多いタイルでは、床温度が 18°Cでも足裏温 度は 22°Cとなり CPA 危険範囲を超えてしまいます。また、住宅の水回りに使 われることが多い樹脂系の仕上材でも、危険温度になることがわかりますね。

「断熱」に十分気をつけた住宅でも、床材の選択によっては CPA 発症のリスク が増加してしまうことを忘れてはいけません。老人と同居されているご家庭で は、トイレ、脱衣室周りの床にカーペットやラグ、畳表などを使用したり、ス リッパを常時着用したりすることが、健康を維持する上で大切なのです。

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Lesson  温暖地の冬は、暖かくて健康的なのか?


入浴中の心肺停止(CPA)発生率が低い北海道の浴室温度は20℃。
温暖地の浴室よりも断然暖かく、健康的であることが明らかになりました。

Lesson7で紹介した東京都健康長寿医療センター研究所の調べでは、北海道の高齢者1万人あたりのCPA発生率は、沖縄県に続いて全国ベスト2位!
四国、九州などの温暖地の県が健康リスク上位に並びます。

ワースト20までの県は健康リスク(CPA発症率)が北海道の2倍以上にも!!
ワースト1位香川県では、北海道の3.5倍にまでCPAリスクが高まります。

入浴中CPA発生頻度は季節性が明らかになっており、冬季は夏季の11倍もの事故が発生します。浴室の室温が低いとCPAに陥りやすいのです。どうして寒冷地北海道のCPAリスクは低いのでしょうか。

北海道の冬季死亡率は1970年代まで全国ワースト1でした。断熱手法が確立されていないこの時代には室内の空気温が外気温度と同程度にしか維持できず、高温・灼熱の石炭ストーブと、-20℃の寒さが室内に同居する住宅も珍しくありませんでした。寒さを表現するために濡れたタオルをクルクルと回し、凍結させて棒状にする実験映像を見かけることがありますが、この現象が室内で再現できるような住宅が一般的だった時代です。

80年代には「豊かで誇りある冬の生活を創出すること」を目的とした、産官学の共同研究が北海道でスタートします。北欧、ドイツ、スイス、カナダなど、海外の寒冷地住宅を参考にしながら、日本の伝統的な住宅構法を高断熱・高気密化する手法が開発され、冬の室内気候も徐々に改善されるようになりました。

現在の北海道では省エネルギー基準を満足する住宅は当たり前。30年後までの規制強化を見越した「近未来型パッシブ住宅」も数多く建設されています。
一方で、全国の断熱構法の普及は未成熟で、住宅ストック全体でいうと無断熱が約50%、現行法令に合致した住宅も全体の5%程度に過ぎません。

住宅の「断熱化」は、光熱費の抑制を主な目的として評価されることが多いのですが、CPAリスクに伴う医療費の増加、さらに介護費など社会的費用全体を考慮した健康リスク度による断熱構法の評価が大切になります。

健康第一の住宅なら、まず「断熱性能」を向上させることが必要ですね。

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Lesson  入浴中の心肺停止は、交通事故死の4倍以上?


交通事故死の4倍以上の高齢者が、住宅で心肺停止に!

東京都健康長寿医療センター研究所は、年間17,000人もの方々がヒートショックに関連した「入浴中急死」に至った、との衝撃的な報告を行いました。その数は、年間の交通事故死者数の4倍にも相当します。

原因は? 予防法は? 今回は冬の健康な暮らしについて考えてみます。

注目したいのは死亡した方の80%以上が、65歳以上の高齢者であること。
30代の若さで自宅を新築し、職務を全うして無事に退職。これからの人生を心豊かに過ごそうとしていた人が、入浴中の事故で急死してしまう。本人はもちろん、ご家族の方の心情を思うと、とても悲しい気持ちになります。

下図を見ると浴室での死亡者数は8月に比べて、1月には約11倍にも達することから、死亡原因には季節性があることが浮き彫りになります。断熱性が低いかあるいは無断熱の住宅では、浴室、脱衣室の室温はほぼ外気温に等しく、冬季間には10℃以下にまで冷え込むことがあります。脱衣によって冷気にさらされた皮膚は放熱を抑制するために抹消の毛細血管が収縮。血圧が急に上昇します。ここで脳血管疾患や心疾患で倒れられる方も多数いるようです。

さらにこの状態で高温の湯船に浸かると抹消血管が一気に拡張して血圧が低下。気を失ってしまい、湯船で溺水、発見が遅れると溺死に至ります。

それでは、これらの疾患をどのように予防したら良いのでしょうか?
一番の解決方法は、新築時に十分な「断熱」をすること。

住宅の新築では最新の設備や豪華な内装に目が行きがちですが、自身の老後を含め家族の健康を守るためには、住宅の基本性能である「断熱性能」を十分に高め、健康被害を最小限にとどめることが必要です。
更新や維持管理に手間と費用のかかる付帯設備に予算を配分するくらいなら、老後を安心して暮らせる見えない部分に予算を振り向けるのが合理的です。

断熱改修も有効な手段ですが、どうしても難しい場合には、まず脱衣室、浴室に暖房器具を設置して室温を確保するようにしてください。また、浴槽へのお湯張りにシャワーを利用することで、浴室内の温度を高めておく方法も意外と効果的です。

新築時の予算配分で変わる老後の健康問題。
ソーラパネルを設置しても、健康被害は減らせません!
介護など家族への負担も考慮して、カシコイ住宅をつくりましょう。

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Lesson 6 「暖房」しても、どうして寒いの?


エアコンの設定温度は26℃なのに、どうしても寒い室内。

厚着をするか、入浴してさっさと眠るか?
住宅の冬の「寒さ」は設備だけでは解決できない、とても厄介な現象です。

暑さ寒さ感(いわゆる温冷感)に関する研究は1920年代の初頭から米国で行われるようになり、端緒となる論文が公衆衛生学の専門誌に発表されました。温冷感の研究は温感の科学的解明が目的であると同時に、寒さや暑さと疾病原因との因果関係を探る、という視点が当初から見受けられるのが特徴です。

昔から室温を測る棒状温度計は「寒暖計」と呼ばれてきました。部屋の空気の温度は、人間の温冷感と強い相関関係があるからですね。しかし、空気の温度だけでは部屋の寒さをはかれないのも事実です。

寒い冬の日、戸外の空気は冷たくても焚き火にあたると暖かさを感じます。周囲の空気温度がほとんど変わらなくても、日射や放射熱を受けるととても暖かく感じるのですね。夏の木陰は、とても涼しく感じるものです。

気温以外にも壁や床、天井の表面温度(放射温度)、隙間風やエアコンなどで生じた微弱な気流、相対湿度などが温冷感の因子として挙げられます。また、人間がどんな行動をしているのか(つまり代謝量の大小)や、着衣の質と量など、環境以外の因子も考慮する必要があります。

エアコンの設定温度を高めにしても寒く感じるのは、壁の温度が低かったり、エアコンの温風が直接人体に当たっていたりする場合に多く見かけられる現象です。また、窓ガラスの断熱性能が低いと冷たい気流が床面付近に流れこむ「コールド・ドラフト」という現象も、寒さの原因として見逃すことができません。

一方で、夜になってもなかなか涼しくならない夏場の二階部屋の環境などは、昼間にたっぷりと熱せられた屋根から侵入した熱が、時間遅れを伴って室内に侵入してくることが原因です。

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解決策はまず「断熱」!

冬暖かくて、夏涼しい家を作るなら、まずは住宅の断熱性能を改善することが不可欠です。

強力な設備とエネルギーに頼ることなく、「断熱」によって、生活の質を容易に、合理的に向上させましょう。

図1 温冷感に関連した室内気候の6要素


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図2 温風吹出口だけが暖かい、冬の室内環境(温風暖房機の測定例)


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Lesson 5 住宅に関する不満は「寒さ」が第1位。


2年以内に住宅の建設を考えているユーザーに「改善したい住まいの悩み」をアンケート調査した結果が報告されています[1]。

温暖地と言われる地域を含め、住まいの悩みの第1位は「寒さ」。

その他にも「結露」「暑さ」「冷暖房費」など、断熱性能の低さに起因する不満が圧倒的な多数を占める結果となっています。北海道で高断熱・高気密化住宅の啓蒙、普及活動が始まってから約40年。冬季死亡率の抑制に大きく貢献してきたこの活動も、全国レベルではまだまだ道半ばなのかもしれません。

全国の住宅ストック数は約6,000万戸とも言われていますが、現在の省エネルギー基準に合致している住宅は5%程度。39%の住宅では、断熱材が全く施工されていないとの調査結果もあります。断熱化の目的を省エネルギーといった経済的な指標だけで評価していては、普及も促進できないのかもしれません。

設備機器の交換や設置は「見える化」がしやすく、効果を判断しやすいという利点があります。一方で、高断熱化や断熱リフォームはなかなか効果が見えにくいものの、生活の質の向上、とりわけ病気要因の排除という意味で、効果は顕著です。もっと皆さんに知ってもらう必要がありそうです。

厚生労働省の統計によれば、毎年18,000人もの尊い命が住宅内のヒートショックによって失われています。交通事故が原因の死者数を大きく上回りますが、新聞などで報道されることが少ないせいか、この事実はあまり認識されていないようです。特に、居間とトイレ、脱衣室、浴室との温度差は脳血管疾患や心疾患との因果関係が指摘されており、早急な対策が必要かと思います。

「ZEH」の普及に向け断熱性能の向上が議論されています。エネルギー需給と安全保障。いずれもマクロ的視点では大切な課題ですが、最も重要なのは国民の生活の向上と健康維持にあることは言うまでもありません。コタツに縛られ、運動不足になりがちな冬の生活。より活動的な生活で、健康・長寿を祝うことがごく普通になるまで、住宅の性能向上活動が遅滞してはいけないのです。

「断熱」ファーストな家づくりが、健康生活の原点なのですから。

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Lesson  室内気候の変化が、健康生活を作る。


私たちの直接の祖先であるホモ・サピエンスは、10万年前にアフリカで誕生したと考えられています。ほぼ数万年をかけてユーラシア大陸全域にその居住範囲を広げ、1万年前には南アメリカの南端にまで到達しました。

この「出アフリカ」と全地球的な拡散を支えたものは何か?

それは、生存に不可欠な食料調達技術の高度化と、衣服、住居を含む社会的適応能力の獲得にあります。時に厳しい自然の変化を緩和し、安定して子孫を産み育てるためには、快適な「スミカ」を得ることは不可欠だったに違いありません。機械設備が誕生するまでの「スミカ」は、地域の気候風土の変動を抑制して、生存に最低限必要な環境を創り出すことが使命でした。

一方、産業革命以降の住宅にはエネルギーの変換装置である暖房や冷房、照明や換気装置が導入され、健康的な環境を徐々に整えていくことになります。都市では上下水道も普及し、平均寿命の延長に大きく貢献しました。20世紀初頭には50歳前後であった平均寿命も、現在では80歳を超えるまでになりました。医療技術の進歩を考慮しても、急激な寿命の伸長は目を見張るばかりです。

一方で、室内での労働や学習時間が長時間化している現代人には、これまでとは違ったストレスが過度にかかる環境に晒されるようになり、自律神経系の疾患を抱える人も年々増加しています。自然界に働き「スミカ」で休むといった原体験が逆転し、室内で働き自然に遊ぶ、といった光景が普通になりました。

環境形成に欠かせない設備は、大きな能力を持つ機械を制御しながら使用して、環境を一定に保つといった設計思想が長い間支配してきました。一方で、断熱性能を高め設備の容量を小さめに設計すると室内環境の変動幅は相対的に増大し、快適環境の範囲内で自然の変動を再現できることも知られています。強大なパワーで自然をねじ伏せるのか?機械の力を最小限にとどめて、自然の変動を許容して共生するのか?どちらが人間にとって健康的なのでしょう?

室内気候の変化が、健康生活を作る。|健康のための室内気候講座


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Lesson  生活リズムを維持することの大切さ。


生物には体内時計が備わっていることを初めて発見したのは、フランスの科学者ジャン=メラン。体内時計は、概日リズム(がいじつリズム: circadian rhythm:サーカディアン・リズム)とも呼ばれています。

動物の体内時計は24時間周期の昼夜の光の変動リズムによって生成し、温度、食事やストレスなどの外的刺激によって修正されると言われています。

出生後の赤ちゃんが昼夜に関係なく2〜3時間ごとに起きて泣き出すことは、みなさんが経験していることかと思います。生後16週目頃からは体内時計が徐々に修正され、1年から数年をかけて正確な24時間周期になっていきます。体内時計の生成には男女差があり、女子では小学校低学年の頃に、男子はこれよりも遅く高学年から中学生の頃にようやく体内時計が正確に働き始めます。

体内時計は、遺伝子の複製が昼間の紫外線の影響を受けることを避けるために獲得されたと考えられており、ヒト成長ホルモンが睡眠中の夜間にしか分泌されないことも、これに関係していると考えられます。

体内時計が正常に働かなくなることをフリーラン現象と言いますが、睡眠障害、発達障害、学習障害など多くの疾病の原因として認知されています。最近、大学の授業が始まっても講義に集中できない学生が増えています。彼らの体温を測定してみると、概ね36℃以下の低体温が観察され、朝になり活動を始めても体内時計が夜のままであることが原因としてあげられます。

室内での活動が長時間化し、しかも精神的に高度な活動を要求される現代。太古からの生活リズムが明らかに崩壊している現代人の生活を振り返る時、体内時計が健康に密接に関連していることを、もう一度認識しなくてはいけません。

現代人が生活する室内空間の温度は空調設備でほぼ一定に保たれ、照明設備は終日の精神活動を要求します。近年では、長時間労働によるストレスで精神的な疾患に陥理、最悪の事態となるケースも少なくありません。

特に体内時計の狂いは、子どもの成長に悪影響を及ぼすことがわかっています。室内気候は自然と同様のリズムで周期的に変動させることが必要です。もちろん変動幅が大きいと不快感を醸成しますので、リズムと変動幅を適切に設計しなくてはいけません。室内気候設計の要諦は、自然から学ぶということです。

「早寝、早起き、朝ごはん」

いくら長時間学習しても、子供の学習成績が上がるとは限りません。適切な室内気候下における生活リズムの維持と、ストレスの発散がとても大切です。
朝の日射と冷気に直接さらされるだけで、子供の体内時計はリセットできます。

(参考文献)中山昭雄著「温熱生理学」(理工学舎)

生活リズムを維持することの大切さ。|健康のための室内気候講座
(出展)「体温と身体の関係」 http://nadja.upper.jp/?cat=19


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Lesson  日本人が最も大切にしているのは「健康」。


内閣府は日本人を対象とした「幸福度に関する判断基準」に関するアンケート結果を公表しています。ここからは、日本人の本音が垣間みえてきます。

解答(重複解答あり)で第1位を占めたのは、「幸福のためには健康が第一」。およそ66%の日本人は「健康」が幸福の第一条件であると解答しました。
続いて「経済的なゆとり」「家族関係」が、ほぼ同率で続きます。

意外にも「趣味」や「楽しみ」といった余暇型は全体の25%程度に過ぎません。さらに「安定した仕事」「仕事のやりがい」といった就業充実型は20%以下。
「社会への貢献」「地域の人たちとの関係」といった社会連携型は、ごく少数に止まる結果となりました。

逆説的に言えば、現代日本人は「健康」「家計」「家族関係」の将来像に漠然とした不安を抱えながら生活をしている、ということなのかもしれません。

目標とすべき室内気候のあり方について、よく質問されることがあります。
筆者の回答は・・・。

「良い室内気候」とは「良いうち」を作ることです。「うち」とは「家」。「うち」とは「内側」。「うち」とは「自分」。「うち」とは「家族」。

つまり、自分や自分の大切な家族が豊かで充実した人生を安心して送ることができる、そんな住宅の室内環境を創造して提供すること。これが「室内気候」設計の目標であり、意義なのです。住宅の設計は限られた予算の中で施主の要望をいかに叶えるのかという、経済合理性を中心とした概念ではありません。

立派な床柱や欄間、高価な大理石の床よりも価値のある「健康」と「家族」。
限りある人生の時間と資産を有効に活用して、たった一度きりの人生を豊かにしてくれる住宅が、真に求められていると思います。

日本人が最も大切にしているのは「健康」。|健康のための室内気候講座

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Lesson 「快適さ」は、本当に贅沢なのか?


一年を通して快適な環境で暮らしたい。でも、光熱費が心配。
こんな声をよく耳にします。中には快適な環境で子育てをすると、もやしっ子ができてしまうから、多少不快な方が教育には良い、といった乱暴な意見もあるようです。健康的な室内環境を考える上で「快適さ」の持つ意味は重要です。

人間は生存に必要な環境を選択するために、視覚や聴覚、皮膚感覚といった感覚を持っています。いわゆる五感ですね。受容器で受けた環境刺激は大脳で評価され、服を脱ぎ着したり、木陰に入ったり、暖房のスイッチを入れたりと、生存のために行動を起こします。このような意味で、感覚は危険を察知するために人間に備わった機構、ということができるかもしれません。

「快適であるということは、自分の生存にとって安全だ」と自分が認識している状態である、と定義することができます。逆に「不快」な状況は、健康に対する危険信号であるとも言えます。室内気候を快適な状態に保つことは、食や衣と同様に健康を考える上で重要な要素であることは言うまでもありません。

近年の健康ブームで、健康食品をはじめとした様々な商品やサービスが注目を集めています。一方で暖冷房費を含む光熱費は逆進性が高いことが知られており、所得の伸びない現在の状況下では、光熱費を節約するためにエアコンをこまめに入り切りするなど、家計防衛の工夫がされています。

しかし、不快感が危険を知らせているのに行動を起こさず、体調を崩したり、最終的に病気になったりしたのでは、本末転倒です。マクロの暖冷房費は、医療費や介護費といった社会保障費との関連性の中で議論されるべき、との主張も現代社会では徐々に合理性をもち始めています。

英国では光熱費が世帯収入の10%を超過する家庭を「Fuel Poverty」と定義して、貧困家庭の生活環境水準を向上させる運動が展開されています。光熱費を抑制しつつ、年間を通して快適な住環境を提供する。室内気候を提案・創造している建築家や設備設計者、エネルギー供給業者とともに、需要家である消費者など、多くのステークホルダーが協力してこの目標を達成することが社会的に求められています。日本の現状はいかがでしょう?我慢は美徳ですか?

「快適さ」は、本当に贅沢なのか?|健康のための室内気候講座

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