健康のための室内気候講座(改訂版)

Lesson 1_rev. 「快適さ」は、本当に贅沢なのか?

 
 
自分自身はもちろん、自分の大切な家族が健やかで充実した人生を送るために必要十分な、生活の「ウツワ」を創る。
 
「健康住宅づくり」には、一人ひとりの大切な願いを叶えるために欠かせない基本的な住性能と、時代とともに変化する人生プランに合わせた持続可能で柔軟なデザインが不可欠です。
 
「健康のための室内気候講座」は、そんな住まい手の切実な願いを実現するための工夫を、再現性のある科学的な知見を背景にしながら、できるだけ分かりやすく解説していきたいと思います。
 
それでは早速第一講目から始めていきましょう。
 
 

 
 
一年を通して「快適」な環境で暮らしたい。でも、光熱費が心配。
 
健康な暮らしを維持するのために不可欠な「快適さ」の必要性が広く喧伝される現代でも、健康より経済優先とも取れるような声をよく耳にします。
 
中には快適な環境で子育てをすると「もやしっ子」に成長してしまうから、多少不快な方が幼児教育には良い、といった乱暴な意見も散見される有様。  
 
でも健康な室内環境を考える上で「快適さ」の持つ意味はとても重要です。
 
 

 
 
「不快」は、健康が維持できなくなるという危険信号。
 
人間は生存に必要な環境を選択的に取得するために、視覚や聴覚、皮膚感覚といった感覚器官を具備しています。いわゆる五感ですね。
受容器で受けた環境刺激が大脳で「不快」と評価されると、これを回避するために服を脱ぎ着したり、木陰に入ったり、暖房のスイッチを入れたりと、人は生存のための行動を起こします。
 
「不快」という感覚は、言い換えれば「健康」に対する危険を察知するために人間に備わった機構、ということができるかもしれません。
 
「快適」であるということは、「この環境は自分の健康にとって安全だ」と自分が認識している状態である、と定義することができるでしょう。逆に言えば「不快」は、健康維持に対する危険信号であるとも言えます。
 

「快適さ」を維持するために必要な住宅の性能は?
 
アフリカの温暖な環境で生まれた人類は、衣類や住居というパッシブ技術を 駆使しながら社会的な適応をはかり、居住地域を拡張してきました。
 
室内の環境を「快適」な状態に保つということは、「食」や「衣」と同様に健康にとって不可欠な要素であることは言うまでもありません。
 


 

 
近年の健康ブームで、健康食品をはじめとした様々な商品やサービスが注目を集めています。スポーツジムや健康食品、サプリメントの定期的な購入は、特段珍しいことではなくなってきました。
 
一方で暖冷房費を含む光熱費は逆進性が高いことが知られており、可処分所得がなかなか伸びない日本では、光熱費を節約するためにエアコンをこまめに入り切りするなど、家計防衛のための涙ぐましい工夫が行われています。
 
しかし、不快感が健康維持への危険を知らせているのに行動を起こさず、体調を崩したり、最終的に病気になったりしたのでは、本末転倒です。
 
マクロ的に見れば暖冷房費は、医療費や介護費といった社会保障費との関連性の中で議論されるべきである、との主張も現代社会では徐々に合理性をもち始めています。
 
冷暖房費を節約する目的で室内環境の快適性を犠牲にしていると、風邪や寒中症などの疾患にかかりやすくなるのはよく知られた事実です。光熱費が安くなっても、医療費として支払うのではトータルコストは増大するという矛盾をどう解決すれば良いのでしょうか?
 
 

 

光熱費を抑制しつつ、年間を通して快適な住環境を提供する。
 
室内気候を提案・創造している建築家や設備設計者、エネルギー供給業者とともに、需要家である消費者など、多くのステークホルダーが協力してこの目標を達成することが社会的に求められています。
 
この講座では、本当に必要な快適環境を持続可能なパッシブ手法を用いて創造する方法について議論していきたいと思います。
 
「我慢」は、本当に美徳ですか?
 

 

  
室内気候研究所 主席研究員
工学博士 石戸谷 裕二
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