健康のための室内気候講座(改訂版)

Lesson 10_rev 風邪の予防には、適切な湿度維持が有効!

 
「インフルエンザ」の語源って、なに!
 
冬の4大死亡原因の一つとして恐れられている呼吸器系の疾患「肺炎」を引き起こすこともある風邪。健康の大敵「インフルエンザ」は戦争の勝敗にも影響を及ぼしかねないという史実が、語源だとも言われています。
 
風邪の予防には、ウイルスや細菌に対する正しい知識が必要です。
 
冬になると急に増加するインフルエンザの患者さん。原因はインフルエンザ・ウイルスが喉や鼻の粘膜に付着して人間の細胞に侵入することです。細胞を宿主として次第に体内で増殖し、発熱や咳などの辛い症状を引き起こします。
 

(写真)寝室は、時として病室となることもあります。
 
「インフルエンザ」は、どうして冬に大流行するの?
 
下図に示したように、室内の相対湿度が40%を下回るとインフルエンザ・ウイルスの活性化にとって好適な環境となり、結果として人間の細胞はウイルスに感染しやすくなります。
 
室温維持のため暖房を使用すると室温が上昇し、湿度は相対的に低下していきます。高断熱住宅の実測調査でも日中の室温が日射の影響で30℃以上にまで上がり、相対湿度は20%以下まで低下する事例が頻繁に報告されています。
 
いわゆる、冬の「過昇温」「過乾燥」問題です。
 
気温が低い冬には外界の空気も乾燥してきますが、室内での暖房の使用によって空気はさらに乾燥して、ウィルスが活性化しやすい環境になるのです。
 

 
過剰な加湿が、新たな健康リスクを生じさせることにも注意!
 
アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー性の疾患も、相対湿度が40%以下の環境で発現頻度が急激に上昇します。そこで家電量販店の冬の定番商品、加湿器の出番となるわけです。
 
でも低断熱の住宅で加湿器を使用することは、本当に健康的なのでしょうか?
 
これまでにも何度か説明してきましたが、断熱性の低い家では窓ガラスや壁の表面温度がとても低く、冷たくなります。加湿をしない状況でも結露が生じている住宅では、加湿によりさらに重大な健康被害が生じる可能性があります。
 
冬の「結露」は住宅や家具を傷めてしまうばかりでなく、カビや細菌の温床ともなり、健康リスクを高めかねません。
 

(写真)結露による二次被害は、想像以上に深刻。
 
住宅の高断熱化で、「調湿・蓄熱」の効果が顕在化してくる。
 
土壁などの伝統的な内装構法には空気中の水蒸気を壁に蓄えたり放散して、湿度を調整する能力があります。現在の日本で最も普及している樹脂系の内装材「ビニールクロス」は、水蒸気を吸収、調整する機能がありませんから、冬でも水蒸気が過多になると壁や窓に「結露」が生じやすくなります。
 
一般的な家庭では、炊事や入浴、洗濯物の乾燥などで一日に20リットルもの水蒸気が発生していますが、水蒸気を貯めておく能力が低い現代の住宅では、換気によって水蒸気はそのまま室外へと排出されてしまい、室内にとどめておくことができないのです。
 
結果として加湿器などを使って水蒸気を供給することになりますが、使用方法には十分な配慮が必要になることを忘れないようにしましょう。
 

(写真)調湿建材を壁に使用すると、自然の力で湿度をコントロール。
 
最も有効な感染対策は「断熱」! 「調湿」性能を持った建材も効果的。
 
加湿器や乾燥機など機械の使用で健康環境を維持しようとする前に、「断熱」を十分に強化して室内の表面温度を高く保ちつことが、健康リスクを低減するための近道です。
 
さらに自然素材を適用した「調湿建材」を内装材料に採用することで、生活の中で室内に発生した水蒸気を上手に利用することが可能になり、結果として風邪を予防することもできるようになります。
 
大切な家族の健康を守るためにも、「湿度調整」に関する正しい知識を習得しておくことも大切ですね。
 

 
 
 
 

 
 

  
室内気候研究所 主席研究員
工学博士 石戸谷 裕二
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Lesson 9_rev 足裏の温度低下が、健康リスクとなる現実。

 
断熱不足による浴室の室温低下が、冬季のCPA発生の引き金に!
 
「断熱」によって家の中に「寒さ」を入り込ませない。ヒートショックによる CPA(心肺停止緊急搬送)のリスクを浴室から排除することが、冬季の健康法 の第一条件であることはこれまでにも述べてきたとおりです。
 
「室温」が維持されていれば、家庭内CPAは発生しないのか?
 
今回は「寒さ」の他にある、意外と見落とされがちな「家庭内CAP」の発生原 因について考えてみましょう。
 
 

(写真)大理石の床は美しいけれど、健康リスクも同居している。

 
 
足裏からの熱損失は、床の材料選びで決まる!
 
人間は代謝によって体内で熱を産生し、これを外部に放散することで体温を維 持しています。ここでは、足裏で生じている熱の移動に着目して、冬の健康リ スクについて考えていきましょう。
 
同じ温度の物体でも、床の種類(熱伝導率)が違うと、触った時の暖かさには
違いがあるのは、経験的にも理解できるでしょう。
 
木製デスクがスティールデスクより接触した時に暖かく感じられるのは、木の 熱伝導率(熱の伝わりやすさ)が金属よりも小さく、手から机に逃げていく熱 の速度が遅いからです。
 
「木のぬくもり」という経験の、物理学的な説明にもなっていますね。
 
入浴時に脱衣室、あるいは浴室で裸足になった時、足裏からの熱の伝わり易さ も床の仕上げ材料の選択によって大きく異なります。
 
下図でもわかるように、天然の石やタイル、コンクリートではカーペットの10 倍以上の熱が足裏から急速に奪われますから、床暖房などで表面温度を高く維 持しておく必要があります。
 

 

 

足裏の温度が低下すると、血圧は急激に上昇する。
 
人間の足裏温度は通常 27°C に保たれていますが、これが 24°C まで低下する と、血圧は 30から60mm [Hg]も急上昇します。
 
室温が維持されていても、冷たい床に触れることによって足裏温度が24°C以下 にまで低下する状況は、浴室でのCPA発生の危険信号と言えるでしょう!
 
床の断熱が施され室温が十分に確保されている状態で、床に直接足を接触させ た時の「足裏温度」と床の材料との関係を予測した結果が下の図です。
 

 

 
浴室の床材として使用されることの多い樹脂やタイルでは、床温度を18°C に 維持しても、足裏温度は 22°C となりCPAが発生する危険範囲を超えてしまい ます。また、住宅の水回りに使われることが多いリノリウム系の仕上材でも、 危険温度になることがわかりますね。

 

 
ユニットバスの床面が、冷たくならないようにしっかり「断熱」を!
 
「断熱」に十分に配慮した住宅でも、床材の選択によってはCPA発症のリスク が増加してしまうことを忘れてはいけません。老人と同居されているご家庭で は、トイレ、脱衣室周りの床にカーペットやラグ、畳表などを使用したり、ス リッパを常時着用したりすることが、健康を維持する上で大切なのです。
 
また、裸足になることが想定される場所の室温を、単独で高めに維持すること ができる暖房設計も、健康リスクの低減には有効です。
 
 


(写真)浴室の床面温度は、健康リスクに直結している。

 
 
 

 

 
 

  
室内気候研究所 主席研究員
工学博士 石戸谷 裕二
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Lesson 8 温暖地の冬は、本当に暖かくて健康的なのか?

 
入浴中の心肺停止(CPA)発生率が低い、北海道の浴室温度は20℃!
 
「Lesson 7」で紹介した東京都健康長寿医療センター研究所の調べによると、北海道の高齢者1万人あたりのCPA発生率(入浴中の心肺停止事故)は沖縄県に続いて低く、健康環境では全国ベスト2位という結果になりました!
 
一方で、健康リスク上位県には、四国、九州などの温暖地の県名が並びます。
 
同時に、北海道の浴室の温度は温暖地も断然暖かく、健康リスクが抑制されていることが実測調査の結果からも明らかになっています。浴室の室温と健康リスクは、切っても切れない関係があるようです。
 
 

 

ワースト20までの県では、浴室の健康リスクが北海道の2倍以上!
 
入浴中の心肺停止搬送(CPA発症)件数でワースト1位は、なんと香川県。
 
CPAリスクは、なんと北海道の3.5倍と、非常に高いことが分かりました。
 
入浴中のCPA発生頻度は季節性が明らかになっており、冬季では夏季の11倍にのぼる事故が発生しています。浴室の室温が低いとCPAに陥りやすいのです。
 
それでは、どうして寒冷地北海道のCPAリスクは低いのでしょうか。
 
 

 
 
北海道の冬季死亡率は、1970年代まで全国ワースト1だった!
 
断熱手法が確立されていなかった1970年代までの北海道の住宅では、室内の空気温が外気温度と同程度にしか維持できず、高温・灼熱の石炭ストーブと、-20℃の寒さが室内に同居する住宅が一般的でした。
 
寒さを表現するために濡れたタオルをクルクルと回し、凍結させて棒状にする実験映像を見かけることがありますが、この現象が室内で再現できるような住宅が一般的だった時代が、明治以降延々と続いていたのです。
 


(写真)明治期に北海道に導入された、断熱のない住宅。
 
 
北海道で始まった、日本の「高断熱・高気密住宅」開発と普及。
 
厳しい冬の生活を克服するため、北海道では「豊かで誇りある冬の生活環境を創出すること」を目的とした産官学の共同研究が、1980年代になってようやくスタートします。
 
北欧、ドイツ、スイス、カナダなど、海外の寒冷地住宅を参考にしながら、日本の伝統的な在来木造住宅構法を高断熱・高気密化する手法が開発・実用化され、冬の室内気候も徐々に改善されるようになったのです。
 
冬を克服するのではなく、冬という自然の恵みを楽しむためには、良好な室内環境の形成が不可欠でした。
 
 

(写真)「健康のため」断熱・気密構法が開発、普及してきた。
 

現代の北海道では省エネルギー基準を満足する住宅は当たり前。30年後までの規制強化を見越した「近未来型パッシブ住宅」も数多く建設されています。
 
一方で、全国の断熱構法の普及は未成熟で、住宅ストック全体でいうと無断熱が約50%。現行法令に合致した住宅も全体の5%程度に過ぎません。
 

健康第一の住宅なら、まず「断熱性能」を向上させることが不可欠。
 
住宅の「高断熱化」は、「省エネルギー法」に見られるようにエネルギー消費量、光熱費の抑制を主な目的として評価されることが多いのですが、CPA発生リスクの上昇に伴う医療費の増加、さらに介護費など社会的費用全体を考慮した「健康リスク度」による断熱構法の評価が大切になりそうです。
 


 
 
 
 

 
 

  
室内気候研究所 主席研究員
工学博士 石戸谷 裕二
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Lesson 7_rev 「暖房」してても、どうして寒いの?

 
毎年のように17,000名以上の高齢者が、「入浴中」に心肺停止!
 
東京都健康長寿医療センター研究所は『年間17,000人もの方々がヒートショックに関連した「入浴中急死」に至った』との衝撃的な報告を行いました。
 
その数は年間の交通事故死者数の、ほぼ4倍にも相当する数だからです。
 
 

 

「浴室」での事故死の原因は? そして予防法は?
 
注目したいのは、死亡した方の80%以上が65歳以上の「高齢者」であること。
 
30代の若さで自宅を新築し、職責を全うして無事に退職。これからの人生を心豊かに過ごそうとしていた人々が、入浴中の事故で急死してしまう。本人はもちろん、ご家族の方の心情を思うと、とても悲しい気持ちになります。
 

「浴室」での事故死が季節病と呼ばれる訳は?
 
下図を見ると1月の浴室における死亡者数は、8月の約11倍にも達することから、「入浴中」の事故には季節性があることが浮き彫りになります。
 
 
断熱性が低い住宅では、浴室、脱衣室の室温はほぼ外気温に等しい!
 


 
 
冬季間には10℃以下にまで冷え込むことがある、「寒い」浴室。
 
脱衣によって冷気にさらされた皮膚は、放熱を抑制するために抹消の毛細血管が収縮。結果として血圧が急激に上昇します。
 
ここ段階で、脳血管疾患や心疾患で倒れられる方も、多数いるようです。
 
さらにこの状態で高温の湯船に浸かると抹消血管が一気に拡張して血圧が低下。気を失ってしまい湯船で溺水、発見が遅れると溺死に至ります。
 
それでは、これらの疾患原因をどのように予防したら良いのでしょうか?
 
 

 

新築時に十分な「断熱」をすることが、一番の解決策!
 
住宅を新築しようとするとき、最新の高性能設備や豪華な内装に予算配分をされる施主をよく見かけます。でも、自身の老後を含め家族の健康を守るためには、住宅の基本性能である「断熱性能」を十分に高め、健康被害を最小限にとどめておくことが不可欠でしょう。
 
更新や維持管理に手間と費用のかかる付帯設備に予算を配分するくらいなら、老後を安心して暮らせる見えない部分に予算を振り向けるのが合理的です。
 
 

 

また、寒い「浴室」の断熱改修も事故防止には有効な手段ですが、どうしても改修が難しい場合には。。。
 
まず脱衣室、浴室に暖房器具を設置して室温を確保するようにしてください。また、浴槽へのお湯張りにシャワーを利用することで、浴室内の温度を高めておく方法も意外と効果的です。
 
新築時の予算配分で変わる老後の健康問題。
 

介護など家族への負担も考慮して、カシコイ住宅をつくりましょう。
 
 
 

 
 

  
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工学博士 石戸谷 裕二
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Lesson 6_rev 「暖房」してても、どうして寒いの?

 
エアコンの設定温度は26℃なのに、どういうわけか「寒い」室内。
 
厚着をするか、入浴して体を温め、さっさと眠るか?
 
「寒さ」の原因を十分に把握していないと、我慢しながら生活しなくてはいけないことになります。ここでは、空気の「温度」だけでは説明できない、室内に残る「寒さ」の原因について考えていきましょう。
 
 

(写真)「暖房」に強い、高性能エアコンも手に入れられる時代だけれど。
 

「暖房」だけでは解決できない、とても厄介な冬の「寒さ」。
 

「温冷感」(暑さや寒さ)に関する研究は1920年代の初頭から米国で行われるようになり、端緒となる論文が公衆衛生学の専門誌に発表されました。
 
「温冷感」の研究は人間の温感の科学的解明が目的であると同時に、「暑さ」「寒さ」と疾病原因との因果関係を探る、という視点が当初から盛り込まれていることが特徴です。
 
昔から室温を測る棒状温度計は「寒暖計」と呼ばれてきました。部屋の空気の温度は、人間の温冷感と強い相関関係があるからですね。しかし、空気の温度だけでは部屋の寒さを測ることはできません。
 
 

(写真)温度計だけどは、「寒さ」の原因を特定することはできない。
 

焚き火に当たると「暖かい」と感じる理由は?
 

寒い冬の屋外。空気は冷たくても、陽射しや焚き火にあたると「暖かさ」を感じることがあります。
 
周囲の空気温度がほとんど変わらなくても、「日射」などの放射熱を受けると、暖かく感じます。また夏の木陰は、とても涼しく感じるものです。
 
気温以外にも壁や床、天井の表面温度(放射温度)、隙間風やエアコンなどで生じた微弱な気流、相対湿度などが温冷感の因子として挙げられます。
 
また、人間がどんな活動をしているのか(つまり代謝量の大小)や、着衣の質と量など、環境以外の因子も考慮する必要がありそうです。
 
 

 

エアコンの設定温度を高めにしても「寒く」感じる理由は?
 

エアコンの設定温度を高めにしても寒く感じるのは、壁の温度が低かったり、エアコンの温風が直接人体に当たっていたりする場合に多く見かけられる現象です。
 
また、窓ガラスの断熱性能が低いと冷たい気流が床面付近に流れこむ「コールド・ドラフト」という現象も、寒さの原因として見逃すことができません。
 
一方で、夜になってもなかなか涼しくならない夏場の二階部屋の環境などは、昼間にたっぷりと熱せられた屋根から侵入した熱が、時間遅れを伴って室内に侵入してくることが原因です。
 
 

暑さ寒さの原因は、空気の温度だけではありません(室内環境の6要素)。
 

「暑さ」「寒さ」の解消は、まず「断熱」から!
 

冬暖かくて、夏涼しい家を作ろうとするならば、まずは住宅の「断熱性能」を改善して、壁や天井の「放射温度」を空気の温度に近づけることが不可欠です。コールド・ドラフトも、壁の温度を室温程度にすることで、気流速度が低下して、足元の寒さを低減してくれます。
 
 

温風吹出口だけが暖かい、冬の室内環境(温風暖房機の測定例)。
 
 
断熱が不十分で室内に「寒さ」を残したまま、強力な設備とエネルギーに頼るのは、合理的な解決方法とは言えません。
 
 

 
十分に「断熱」を強化することによって「寒さ」を室内から排除し、エネルギー消費量を抑制しながら、生活の質を容易に、合理的に向上させましょう。
 
 
 
  
室内気候研究所 主席研究員
工学博士 石戸谷 裕二
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Lesson 5_rev 住宅に関する悩みは、いまも「寒さ」が第1位。

 
今の「住まいに悩み」はありませんか?
 
2年以内に住宅の新築を考えているユーザーに対して実施された「改善したい住まいの悩み」に関する大変興味深いアンケート調査の結果が、日本の住宅雑誌社から報告されています。
 
温暖地と言われる西日本の地域を含め、住まいの悩みの第1位は 「寒さ」
 
その他にも「結露」「暑さ」「冷暖房費」など、住宅の断熱性能の低さに起因する不満が、残念ながら圧倒的多数を占める結果となっています。
 


 

北海道で産学官一体となって進められている「高断熱・高気密住宅」の啓蒙、普及活動が始まってから早くも約40年。
 
北海道など、積雪寒冷地の冬季死亡率の抑制に大きく貢献してきたこの活動も、全国レベルではまだまだ道半ばなのかもしれません。
 


 

「健康リスク」が極めて高かった1980年当時の北海道における健康リスクを低減しようと、断熱性能の強化を推進する連携研究がスタートした日が、ずいぶん遠い過去のように感じるのは、単なる感傷にすぎないのかもしれません。
 
 
 
「寒さ」が証明する、住宅ストックの課題とは。
 
全国の住宅ストック数は約6,000万戸とも言われていますが、現在の省エネルギー基準に合致している住宅はわずかに5%程度にすぎません。
 
39%の住宅では、断熱材が全く施工されていないとの調査結果もあります。
 
断熱強化の目的を「省エネルギー」といった目先の経済的な指標だけで評価していては、今後も普及促進はできないのかもしれません。
 


 

高効率設備の導入で、「健康リスク」は低減できるのか?
 
古くなった設備機器の交換や高効率設備の設置は「見える化」がしやすく、「対費用効果」を明示しやすいという特徴があります。
 
一方で、高断熱化や断熱リフォームによる「健康リスク低減効果」は見える化しにくいようですが、生活の質の向上、とりわけ健康環境の創生意味でいうと、その効果は顕著です。
 
この事実を、もっと多くの皆さんに知ってもらう必要がありそうです。
 


 

交通事故死よりも多い「ヒートショック死」の現実。
 
厚生労働省の統計によれば、毎年18,000人もの尊い命が住宅内の「ヒートショック」によって失われています。
 
「寒中症死」は交通事故の死者数を大きく上回りますが、新聞などで報道されることが少ないせいか、この事実はあまり認識されていないようです。
 
特に、居間とトイレ、脱衣室、浴室との温度差は脳血管疾患や心疾患との因果関係が指摘されており、早急な対策が必要だと思います。
 


 

設備機器の高性能化で、「ヒートショック死」は防げるのか?
 
「ZEH」の普及に向け断熱性能の向上がその条件として議論されています。
エネルギー需給と安全保障。いずれもマクロ的視点では大切な課題ですが、最も重要なのは国民の生活の質の向上と「健康リスク」の低減にあることは言うまでもありません。
 


 

コタツに縛られ、運動不足になりがちな冬の生活。
 
より活動的な生活で、健康・長寿を寿ぐことがごく普通になるまで、住宅の高断熱かなど、性能向上活動が遅滞してはいけないのです。
 
まずは「断熱」ファーストな家づくりが、健康生活の原点なのですから。
 


 
 
 
  
室内気候研究所 主席研究員
工学博士 石戸谷 裕二
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Lesson 4_rev 室内気候の変化が、健康生活を作る。

 
私たちの直接の祖先であるホモ・サピエンスは、10万年前にアフリカで誕生したと考えられています。ほぼ数万年をかけてユーラシア大陸全域にその居住範囲を広げ、1万年前には南アメリカの南端にまで到達しました。
 
「出アフリカ」と全地球的な拡散を支えたものは何か?
 
それは、生存に不可欠な「食料調達技術」の高度化と、衣服、住居を含む「社会的適応能力」の獲得にあります。人間の想像力と生命力に、脱帽です。
 

 
 
時に厳しい自然の変化を緩和し、安定して子孫を産み育てるためには、快適な「スミカ」を得ることは不可欠だったに違いありません。機械設備が誕生するまでの「スミカ」は、地域の気候風土の変動を抑制して、生存に最低限必要な環境を創り出すことが使命でした。
 

 

エネルギー革命が、「住宅」の役割を大きく変化させた。
 
一方、産業革命以降の住宅にはエネルギーの変換装置である暖房や冷房、照明や換気装置が導入され、健康的な環境を徐々に整えていくことになります。
 
都市では上下水道も普及し、平均寿命の延長に大きく貢献しました。20世紀初頭には50歳前後であった平均寿命も、現在では80歳を超えるまでに。医療技術の進歩を考慮しても、急激な寿命の伸長は目を見張るばかりです。
 

 

ますます長時間化、高度化する「室内」での精神活動。
 
一方で、室内での労働や学習時間が長時間化している現代人には、これまでとは違ったストレスが過度にかかる環境に晒されるようになり、自律神経系の疾患を抱える人も年々増加しています。自然界に働き「スミカ」で休むといった原体験が逆転し、室内で働き自然に遊ぶ、といった光景が日常になりました。
 

 

建築設備は、「人間」を中心に進化を遂げてきたのか?

環境形成に欠かせない建築設備は、大きな能力を持つ機械を制御しながら使用して、環境を一定に保つといった設計思想が長い間支配してきました。
 

 
 
一方で、断熱性能を高め設備の容量を小さめに設計すると室内環境の変動幅は相対的に増大し、快適環境の範囲内で自然の変動を再現できることも知られています。
 
強大なパワーで自然をねじ伏せるのか?機械の力を最小限にとどめて、自然の変動を許容して共生するのか?どちらが人間にとって健康的なのでしょう?
 

 
 
  
室内気候研究所 主席研究員
工学博士 石戸谷 裕二
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Lesson 3_rev 「生体リズム」を維持することの大切さ。

 
生物には「体内時計」が備わっている!
 
この事実を初めて発見したのは、フランスの科学者ジャン=メランです。
 
学術的にいうと、体内時計は「概日リズム」(がいじつリズム: circadian rhythm:サーカディアン・リズム)と呼ばれています。動物の体内時計は24時間周期の昼夜の光の変動リズムによって生成し、温度、食事や環境ストレスなどの外的刺激によって常に修正される、と言われています。
 
赤ちゃんの夜泣きの原因は、概日リズムが未発達だから。
 
出生後間もない赤ちゃんが、昼夜に関係なく2〜3時間ごとに起きて泣き出すことは、子育てを経験された方はよくご存知でしょう。
 
生後16週目頃からは体内時計が徐々に修正され、1年から数年をかけて正確な24時間周期に移行していきます。また、体内時計の生成には男女差があり、女子では小学校低学年の頃に、男子はこれよりも遅く高学年から中学生の頃になって、ようやく体内時計が正確に働き始めます。
 
「体内時計」があるから、遺伝子が守られている。
 
「体内時計」は、細胞内の遺伝子の複製が昼間の紫外線の悪影響を受けることを避けるために獲得されたとも考えられており、ヒト成長ホルモンが睡眠中の夜間にしか分泌されないことも、これに関係していると考えられます。
 
「体内時計」が正常に働かなくなることを「フリーラン現象」と言いますが、睡眠障害、発達障害、学習障害など多くの疾病の原因なることが現在では広く認知されています。最近、大学の授業が始まっても講義に集中できない学生が増えていることを、皆さんはご存知でしょうか。
 

 
「体内時計」に生活リズムを合わせて、「良質な睡眠」を。
 
彼らの体温を測定してみると、概ね36℃以下の低体温症の症状が観察されることが多く、朝になって生活行動を始めても「体内時計」が夜のままなので、修学や精神活動に不適な心身の状態にあることが原因としてあげられます。
 
人間の「睡眠」と「覚醒」を司っている物質は、メラトミンです。
 
メラトミン分泌にも概日リズムがあり、午後10時に分泌を始めたメラトミンは、翌朝の6時に分泌を停止して「覚醒」状態へと人間を誘います。
 
体内時計と生活行動に齟齬があると「フリーラン現象」が生起し、免疫システムの修復も不完全になります。学生たちも深夜までスマートフォンなどの白色の画面を注視していたため、メラトミン分泌の開始時刻が大幅に遅延し、朝になっても分泌が停止せずに寝ぼけている、考えることができそうです。
 

 
「在宅勤務」や「リモート授業」の増加で、「室内」での活動が
長時間化し、精神的に高度な活動を要求される現代だからこそ。
 
太古から人間に引き継がれてきた生活リズムが、明らかに崩壊し始めた現代。
 
体内時計が健康に密接に関連していることを考慮しながら、毎日の生活リズムと行動をもう一度振り返ってみなくては、現代人の「健康リスク」を回避することはできません。
 

 
一定の室内環境が、ストレスの原因になることも。
 
現代人が生活する室内空間の温度は空調設備でほぼ一定に保たれ、照度や色温度が一定に保たれた照明設備は終日の精神活動を要求します。
 
近年では、長時間労働によるストレスで精神疾患に罹患するなど、最悪の事態を迎えるケースも少なくありません。
 
特に体内時計の狂いは、子どもの成長に悪影響を及ぼすことがわかっていますので、「室内気候」は自然と同様のリズムで周期的に変動する必要があります。
 
もちろん変動幅が大きいと不快感を醸成しますので、リズムと変動幅を適切に設計しなければならないことは言うまでもありません。
 

 
「室内気候設計」の要諦は、自然から学ぶということです。
 
まずは「早寝、早起き、朝ごはん」から始めましょう。
 
いくら長時間学習しても、子供の学習成績が上がるとは限りません。
 
適切な室内気候下における生活リズムの維持と、ストレスの発散がとても大切です。朝の日射と冷気に直接さらされるだけで、子供の体内時計はリセットできるのですから。
(参考文献)中山昭雄著「温熱生理学」(理工学舎)

 

  
室内気候研究所 主席研究員
工学博士 石戸谷 裕二
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Lesson 2_rev. 日本人が最も大切にしているのは「健康」。

 
「幸福」な人生を営むための「住まい」をつくりたい。
 
住宅づくりの原点は、「住まい手」が充実した、幸福な人生を送るために必要な「ウツワ」を提供することにほかなりません。
 
「ウツワ」を構成する材料には木やガラス、陶器や金属などいろいろな種類の物質がありますが、中央に心地よい窪みがあってこそ、そこに水を溜めることができ、人間の要に供することができるのです。
 
「住宅」に必要なことは材料の価値や性能ではなく、「ウツワ」によって形成された空間の歪みが、人間にとって心地よいもの、使いやすいものであるかどうか、ということに他なりません。
 

 

「住まい手」の幸福にとって、何が一番必要なのか?
 
住宅の設計者に常に投げかけられる正解のこの無い問いは、建築の存在理由と表裏一体をなす真理であり、終わりのない探求の原動力でもあります。
 
「住宅」と「公共建築」の設計上の差異でもっとも重要なのは、その建築が個人の価値観に立脚しているか、不特定多数の確率的な満足で良しとするかの差にあるような気がします。
 

 

一方で「住まい手」の描いている住要求の総和にただただ迎合するのでなく、専門的な観点から論点を整理し、プライオリティーを決定して判断する。
 
建築設計者に求められるのは、医師が患者を診察をして合理的に診療計画を立て、診療を実施する過程に類似しているかもしれません。
 

日本人が「幸福」に不可欠と考えている、大切な要素は?
 
日本人を対象とした「幸福度に関する判断基準」に関するアンケート結果を、内閣府が公表しています。ここからは、日本人の本音が垣間みえてきます。
 
解答で第1位を占めたのは、幸福のためには「健康」が第一ということ。
およそ66%の日本人は「健康」が幸福の第一条件であると解答しました。
続いて「経済的なゆとり」「家族関係」が、ほぼ同率で続きます。
 

 
 
意外にも「趣味」や「楽しみ」といった余暇型は全体の25%程度に過ぎません。さらに「安定した仕事」「仕事のやりがい」といった就業充実型も20%以下。
 
残念ながら「社会への貢献」「地域の人たちとの関係」といった社会連携型は、ごく少数に止まる結果となりました。
 
逆説的に言えば、現代日本人は「健康」「家計」「家族関係」の将来像に漠然とした不安を抱えながら生活をしている、ということなのかもしれません。
 

「室内気候」は、幸福にどう貢献していくのか?
 

目標とすべき「室内気候」のあり方について質問されることがよくあります。
 
「よい室内気候」とは「よいうち」を作ることです。「うち」とは「家」。
「うち」とは「内側」。「うち」とは「自分」。「うち」とは「家族」。
 

 
 
つまり、自分や自分の大切な家族が豊かで充実した人生を安心して送ることができる、そんな住宅の室内環境を創造して提供すること。
 
これが「室内気候」設計の目標であり、存在意義なのです。住宅の設計は限られた予算の中で施主の要望をいかに叶えるのかという、経済合理性を中心とした概念ではありません。
 
 
立派な床柱や欄間、高価な大理石の床よりも価値のある「健康」と「家族」。
 
限りある人生の時間と資産を有効に活用して、たった一度きりの人生を豊かにしてくれる住宅が、真に求められていると思います。
 

  
室内気候研究所 主席研究員
工学博士 石戸谷 裕二
■公式 HP: https://iwall.jp
■ブログ:http://blog.iwall.jp
 

Lesson 1_rev. 「快適さ」は、本当に贅沢なのか?

 
 
自分自身はもちろん、自分の大切な家族が健やかで充実した人生を送るために必要十分な、生活の「ウツワ」を創る。
 
「健康住宅づくり」には、一人ひとりの大切な願いを叶えるために欠かせない基本的な住性能と、時代とともに変化する人生プランに合わせた持続可能で柔軟なデザインが不可欠です。
 
「健康のための室内気候講座」は、そんな住まい手の切実な願いを実現するための工夫を、再現性のある科学的な知見を背景にしながら、できるだけ分かりやすく解説していきたいと思います。
 
それでは早速第一講目から始めていきましょう。
 
 

 
 
一年を通して「快適」な環境で暮らしたい。でも、光熱費が心配。
 
健康な暮らしを維持するのために不可欠な「快適さ」の必要性が広く喧伝される現代でも、健康より経済優先とも取れるような声をよく耳にします。
 
中には快適な環境で子育てをすると「もやしっ子」に成長してしまうから、多少不快な方が幼児教育には良い、といった乱暴な意見も散見される有様。  
 
でも健康な室内環境を考える上で「快適さ」の持つ意味はとても重要です。
 
 

 
 
「不快」は、健康が維持できなくなるという危険信号。
 
人間は生存に必要な環境を選択的に取得するために、視覚や聴覚、皮膚感覚といった感覚器官を具備しています。いわゆる五感ですね。
受容器で受けた環境刺激が大脳で「不快」と評価されると、これを回避するために服を脱ぎ着したり、木陰に入ったり、暖房のスイッチを入れたりと、人は生存のための行動を起こします。
 
「不快」という感覚は、言い換えれば「健康」に対する危険を察知するために人間に備わった機構、ということができるかもしれません。
 
「快適」であるということは、「この環境は自分の健康にとって安全だ」と自分が認識している状態である、と定義することができるでしょう。逆に言えば「不快」は、健康維持に対する危険信号であるとも言えます。
 

「快適さ」を維持するために必要な住宅の性能は?
 
アフリカの温暖な環境で生まれた人類は、衣類や住居というパッシブ技術を 駆使しながら社会的な適応をはかり、居住地域を拡張してきました。
 
室内の環境を「快適」な状態に保つということは、「食」や「衣」と同様に健康にとって不可欠な要素であることは言うまでもありません。
 


 

 
近年の健康ブームで、健康食品をはじめとした様々な商品やサービスが注目を集めています。スポーツジムや健康食品、サプリメントの定期的な購入は、特段珍しいことではなくなってきました。
 
一方で暖冷房費を含む光熱費は逆進性が高いことが知られており、可処分所得がなかなか伸びない日本では、光熱費を節約するためにエアコンをこまめに入り切りするなど、家計防衛のための涙ぐましい工夫が行われています。
 
しかし、不快感が健康維持への危険を知らせているのに行動を起こさず、体調を崩したり、最終的に病気になったりしたのでは、本末転倒です。
 
マクロ的に見れば暖冷房費は、医療費や介護費といった社会保障費との関連性の中で議論されるべきである、との主張も現代社会では徐々に合理性をもち始めています。
 
冷暖房費を節約する目的で室内環境の快適性を犠牲にしていると、風邪や寒中症などの疾患にかかりやすくなるのはよく知られた事実です。光熱費が安くなっても、医療費として支払うのではトータルコストは増大するという矛盾をどう解決すれば良いのでしょうか?
 
 

 

光熱費を抑制しつつ、年間を通して快適な住環境を提供する。
 
室内気候を提案・創造している建築家や設備設計者、エネルギー供給業者とともに、需要家である消費者など、多くのステークホルダーが協力してこの目標を達成することが社会的に求められています。
 
この講座では、本当に必要な快適環境を持続可能なパッシブ手法を用いて創造する方法について議論していきたいと思います。
 
「我慢」は、本当に美徳ですか?
 

 

  
室内気候研究所 主席研究員
工学博士 石戸谷 裕二
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