薪ストーブ1台で快適な環境と 40%の省エネルギーを実現 
~I-project~

「e-プラスター10」で安定した冬の温湿度環境を創出 伐採材や建築廃材を燃料に薪ストーブの暖房エネルギー使用量を灯油換算で 40%削減 加湿器なしで冬期間の室内相対湿度を 40%以上に維持


札幌市西区に 2012 年 12 月竣工した I-project。自然環境保護や省エネルギー住宅計画にも造 詣の深いご夫婦と子供二人の 4 人家族。エコロジカルなライフスタイルを大切にしているご家 族が選んだのは「薪ストーブ暖房」。建設地にあった針葉樹を伐採して燃料にする計画で、住宅 の建設中に発生した廃材も燃料として活用することにしました。
 
 
玄関土間をコアスパースにした1F のプランは、主寝室と浴室などの水回り空間が土間に連続し て配置されています。主暖房機である薪ストーブはこの土間空間に配置。階段室の吹抜けを利用 して暖気が2F にも供給される計画です。薪ストーブは高効率のシガータイプ・ストーブ。酸素 供給を調整しながら燃料の木材がゆっくり燃焼し、暖房が持続される機構です。
 
 
 
 
周囲の山並みを一望できる2F リビングにはキッチンと子供室が一体的に配置され、子供室には ロフトが形成されて子供たちの隠れ家スペースも確保されています。1、2F の壁面や天井には 蓄熱内装材「e-プラスター10」が施工され、薪ストーブからの熱と日射のダイレクトゲインを 吸放熱しながら安定した温湿度環境が作り出されます。
 
 
主暖房装置として薪ストーブを採用する際に心配されるのが着火時の急激な温度上昇と夜間の 室温低下です。また、気になる最寒期の燃料補給回数は、朝に1回、日中は1~2回、夕方から 就寝まで3~4 回程度。就寝中は燃料補給をしていません。1回の燃料補給には針葉樹と広葉樹 を2本ずつストーブに投入。12月から 4 月までに使用した木材量は、購入した広葉樹の薪が 3m3、針葉樹の伐採材と廃材が 3.2 m3とのことです。

2012 年 12 月から 2013 年 4 月まで、1、2F と屋外に設置した温湿度測定装置で環境測定を したところ、全期間を通して1F と2F との温度差は1°C以下に維持されており、断熱性能の高 さを示していました。また、気になる温度変動は燃料補給をしていない夜間を含めておおむね 20°Cを維持。断熱性能に e-プラスターの蓄熱性能を組み合わせることにより、薪ストーブ1台 でも快適な住環境が維持できることが確認できました。木材の暖房エネルギー量を灯油に換算し て比較したところ、予測計算比で約 40%の省エネルギー効果が確認できました。 また、温度の安定と同時に室内の相対湿度も 40%を維持してインフルエンザなど風邪の原因菌 の繁殖を抑制。加湿器を使用しなくても、調理、入浴、洗濯乾燥などで生じた水分と e-プラス ターの調湿効果により、健康的な空気環境が維持されています。
 
 
(設計、実測協力:フーム空間計画工房)
(写真撮影:伊藤健次)
 
 

日射熱と内部取得熱で60%の省エネルギーを実現 
~H-project~

「e-プラスター20」を施工したパッシブソーラーハウスの省エネ性能を実測で確認 潜熱蓄熱効果で年間を通して快適な室内環境を創出


札幌市の中央区にあるパッシブソーラーハウスの実測事例を紹介します。 2010年7月に竣工したH-project。オーナーは夫婦と子供の3人家族。ギターの演奏を趣味にするご主人のスタジオと寝室を下階に配置し、周囲の山並みが見渡せる開放的なリビング・ダイニングは住宅の最上層にあります。
 

 
内装仕上げには潜熱蓄熱内装材「e-プラスター20」を採用。天井を含めた 270㎡にe -プラスター施工し、潜熱蓄熱によって室内に取り込んだ日射熱、電化製品や調理など の生活排熱を暖房に有効利用する計画です。補助暖房用の放熱器は高さ70mm の温水パネルヒータ。幅木のように外壁の下部に配置して、パネルヒータの上昇気流も「e-プラスター」に吸収、蓄熱。安定した室内放射熱環境が実現できるように配置しました。熱源は、バルクで配送される LPG(プロパンガス)。高効率ボイラーと組み合わせて、 暖房、給湯、調理用熱源として利用します。
 

 

 
住宅の開口部には高性能木製サッシを採用。住宅の熱損失係数 q 値は設計値で 1.24(W/ /K)と、北海道庁が推進する北方型住宅 ECO基準を上回る断熱・気密性能を実現しています。また、新鮮空気は第2種機械換気で最下層から導入。機械室の暖 房配管で予熱して居住空間へと配気され、外気による寒さを感じることはありません。
 

 
 
H-project の熱損失係数 q 値を実測したところ、設計値を大幅に上回る 0.95(W/ /K) を確認。潜熱蓄熱のパッシブ効果で負荷断熱 400mm に相当する熱性能の改善を実現しました。断熱材を厚くしなくても、高性能住宅の内装にe-プラスターを施工することで容易にパッシブソーラーハウスを実現できることが、実証されました。
 
 

 
 
一方、H-project で確認された自然温度差の実測値は 9.05°C。全く暖房をしなくても、内部取得熱で室内の温度は外気温度より9°Cも高く維持されることになります。自然 温度差と暖房量に関する既往の知見1)によれば、自然温度差が8°Cの場合、暖房量は 50%削減されることが知られています。しかし、この知見は日中の太陽熱によって室 温が過度に上昇するような住宅は想定しておらず、熱容量が少ない実際の高性能木造 住宅ではパッシブソーラーの効果が十分に得られない場合も散見されます。
 
 

 
 
 
e-プラスターを壁と天井に施工したH-project では、室内の熱容量が一般的な木造住 宅の約3倍。日中の日射熱を呼吸して夜間に放出することで、安定した室温変動と省エネルギー効果が期待されます。通年の測定結果でも、暖房用エネルギーは全熱損失量 の 40%と、期待どおりの省エネルギー性能を発揮していることが確認できました。また、心配された夏の暑さも夜間外気による通風で壁体に蓄冷。エアコンを利用することなく、快適な環境が維持できました。
 

 

 
札幌は PSP(Passive Solar Potential)が全国で最も低い地域として知られています。 冬期の日照時間が長い北海道の帯広や北見、釧路などの地域、本州の太平洋側地域ではe-プラスターのパッシブ蓄熱効果がより有効に発揮できると考えられます。
e-プラスターは室内取得熱を日中に吸収、夜間に放出して効果的に利用。60%もの大 幅な省エネルギー効果が安定した室内環境とともに実現されることを、実測で確認できました。
(設計、測定協力:フーム空間計画工房)
1) 荒谷登:住まいから暑さ・寒さを取り除く採暖から『暖房』、冷暴から「冷忘」 へ、彰国社、2013
 
 

南面大開口をもつ高断熱・高蓄熱ソーラー・ハウス。
〜M-Project(札幌市)〜

ZEHに「e-プラスター」を施工して、快適環境を実現。
〜K-house(千歳市)〜

UA=0.24の超高性能住宅と蓄熱技術で、LOHASな環境を創出。
~ T-house ~

  〜 T-house(三笠市)の環境測定から分かったこと〜
 
北海道の大自然に抱かれた絶好の敷地に建つ超高性能住宅「T-house」(施工:武部建設)。厳寒季から初夏まで実施した温熱環境の測定から明らかになったことを、健康・快適や省エネルギーといった観点から考察してみることにしましょう。
 
超高性能住宅と潜熱蓄熱技術で革新的な環境創生手法を構築。
 
片流れの大屋根が印象的なT-houseのシンプルで優雅なデザイン。武部建設が長年培ってきた高断熱・高気密住宅の設計・施工技術と、潜熱蓄熱材「e -プラスター」との融合で革新的なパッシブ環境デザイン手法を確立することが、このプロジェクトの目的です。
 

 <写真1> 大きな庇とウッドデッキがあるT-house 南西面ファッサード
 
 
T-houseの延べ床面積は 217 [m2]。容積180 [m3]のボリューム感に溢れた2層吹き抜けの大空間を中心に動線が計画されており、ゆとりあるリビング・ダイニングが住宅の環境バッファとデザイン・コアを形成しています。
 
日射熱を効果的に取り入れるために設けられた大開口部には、高性能木製サッシとトリプルガラスを採用。基礎断熱された床下空間には暖房と空気予熱用の温水暖房器を施工しました。リビングには薪ストーブも設置され、炎の揺らめきを楽しみながらリラックスできる空間となっています。もちろんCO2ゼロエミッションですから、環境配慮も万全です。
12月からは深い積雪に閉ざされる北国の暮らし。でも、高断熱・高気密技術に裏打ちされた高性能住宅の基本的性能と、新たに導入した潜熱蓄熱技術が室内環境を健康に適した範囲へと安定させ、パッシブ技術による優しい温熱環境が形成されます。
 

<写真2>大容量の気積と木質系3層窓の大開口持つリビング・ダイニング
大屋根で調整された太陽光が、四季を通じて快適な室内環境を創出します。
 
 

 

パッシブ蓄熱で、厳冬期から初夏まで安定した温湿度環境を維持。
 
図1は、1F, 2Fの室温と相対湿度、外気温の推移を示しています。測定期間は2016年1月5日から5月31日までの半年間です。外気温度(青)がマイナス20℃付近まで冷え込む厳寒期の朝でも、1F, 2Fの室温(赤、橙)ほぼ全期間で快適領域(20〜24℃)を維持。
 
冬から初夏まで温熱環境がほぼ一定に推移するという、驚くべき実測結果です。
 
また、潜熱蓄熱建材の調湿効果により、加湿器を使用しなくても室内の相対湿度(緑)は健康領域の40~60%に保たれています。安定した室温と相対湿度の推移は快適な温熱環境を維持するための絶対条件ですが、一般的な高断熱・高気密住宅に見られる冬場の過昇温や極度な乾燥もなく、ほぼ全期間でISO 7730環境規格を満足する結果となりました。
 
 

<図1> 全測定期間(2016/1/5 - 5/31)の温湿度の推移
 
 
外気温度が35℃を超過しても、快適環境をパッシブに実現。
 
室内の温湿度変動の様子をもう少し詳しく見てみましょう。
 
図2は、日最低気温がマイナス10℃にもなる厳寒期の室内環境の実測結果です。室内環境は常に快適範囲に維持され、過昇温による乾燥も防止されています。
 
 

<図2> 厳冬期の室内環境の推移(10日間:2016/2/4 - 2/13)
 
 
北海道では5月から6月にかけて、フェーン現象などの影響によって外気温がとても高くなることがあります。図3は2016年5月に測定した外気温と室内環境の測定データです。全国のアメダス地点の中でも、高温ランク上位に北海道の都市が名を連ね季節外れの暑さとなった期間のデータです。
 
5月16日から始まった高温の一週間。中でも5月19日は最高気温が30℃を超過する真夏日となりました。翌20日からはさらに暑く、4日連続で猛暑日を記録します。
 
高断熱、高蓄熱構法による流入熱量の抑制に加え、大庇と植栽による日射遮蔽効果は絶大です。また冬季間、基礎空間に蓄えられていた冷熱が室内に導入される新鮮空気を予冷するとともに、室内に施工した潜熱蓄熱建材の蓄冷効果が相乗効果を発揮して、突然の猛暑環境からT-houseの室内環境を守ってくれたということです。
お客様にお伺いしたところ「猛暑日のニュースが流れていても屋外に出るまで暑さに気づかないほど快適に過ごせました。」とのこと。蓄熱をすると夏の暑さが心配という方もいらっしゃいますが、建築的な配慮で蒸暑環境でもパッシブに快適環境を創ることができるということを示唆する結果となりました。
 

<図3> 猛暑期間中の室内環境(8日間:2016/5/15 - 5/22)
 
 

<写真3> ウッドデッキを持つ大庇と植栽の日射遮蔽効果
 

床下集中換気システムで、置換換気を実現。床放射冷暖房の効果も。
 
 T-houseでは床下に設置された放熱器が暖房と換気予熱に利用されています(図4)。
 
新鮮空気は床下空間に直接導入され、室温よりも4から5℃程度高くなるまで加熱されて、窓面近傍に配置されたスリットから室内へと導入されます。もちろん床表面温度は室温よりも高めに維持されるので、床放射冷暖房としても機能するわけです。
 

 <図4> T-houseの暖房・換気システム
 

予熱された新鮮空気は床スリットから室内へと供給され、室内活動によって汚染された空気は空間の上部から外部へと排出されます。汚染空気が新鮮空気と混合希釈される混合換気とは異なり、置換換気(Displacement Ventilation) によって空気質が効率よく維持できるシステムとなっています。換気駆動力はファンや重力換気にも対応できるので、周囲環境に合わせた換気システムが構築できるメリットもあります。
 
図5は、暖房需要が最大となる2月の床下温度と室温の推移を示しています。室温が設定室温を下回ると床下放熱器に温水が供給され、室温が上昇していく様子がわかります。また、就寝時には室温を降下させて睡眠の質を高めるために暖房システムは停止しています。タイマーによる間欠運転が可能になるようシステムを作り込みました。一方、暖房停止後から朝までの室温降下は2℃程度であり、冷え込みが非常に小さいことがわかります。
 
また、暖房時の床下温度は室温よりも高いため、床表面温度も快適に維持されています。ヒートショックの原因にもなる床表面温度の低下。T-houseでは、一般的な床暖房設備工事をすることなく、床面を暖かく維持できているのです。
 

<図5>暖房需要期(2月)の床下温と居間室温の推移
 

図6は、暖房の不需要期を迎える3月の床下気温と室温の推移を示しています。もちろん北海道の一般的な住宅では5月までが暖房需要期なのですが、T-houseのようなパッシブソーラーハウスでは日射量が多くなる時期から、暖房需要に変化が見られます。
 
日射熱取得量が増加すると室温が設定室温よりも上昇して、床下暖房器が停止している時間も長くなります。しかし、床下放熱器の停止時でも基礎内部の熱容量の効果で外気導入よる床下温度の顕著な低下は見られませんでした。
 

<図6>暖房需要の切替期(3月)の床下温と居間室温の推移
 

床下放熱器の保温運転で、基礎周りの結露を防止できる。
 
床下空間と居間の相対湿度の推移を図7に示しました。室内の相対湿度が床下空間の相対湿度に精度よく追随している様子が伺えます。一般的に竣工当初はRCに含まれる余剰水分の放散で床下の相対湿度が上昇する傾向がみられるのですが、竣工までの十分な気中養生によって適度な湿度領域での推移が見られました。
 
6月以降、北海道では蝦夷梅雨と呼ばれるような低温、高湿度の気候が出現します。今回の測定でもその傾向が顕著に現れる結果となりました。一方で、放熱器の運転によって床下空間の相対湿度が低下することもわかりました。蝦夷梅雨期間の保温運転が基礎周りの結露防止に効果的であることが示唆される結果です。
 

<図7>床下および1F居室の相対湿度の推移
 

高断熱化により室内の上下温度差を抑制できる。
 
天井付近ばかりが温まって、居住領域や足元が寒いという暖房の悩み。断熱性能の低い住宅では室内の上下温度差が大きく、快適性を損なってしまうこともしばしばあります。
 
300mm断熱と高性能サッシュを備えたT-houseでは、上下の温度分布もほとんどありません。1F居間と2F居室に設置したデータローガーの測定値から、上下温度差を予測して図8に示しました。暖房需要が大きい2月の上下温度差は平均的に2℃程度の差があるものの、暖房需要が低下する3月からは上下温度差も1℃に低減しています。
 
また、薪ストーブの運転による上下温度差の顕著な上昇も見られませんでした。高断熱化による暖房負荷の抑制と、適切な暖房システムの選定によって上下温度差を抑制し、快適性を高められることが実証されました。
 

<図8> 1Fおよび2F間の温度差の推移
 
 
日射熱のパッシブ利用で暖房エネルギー使用を大幅に削減。
 
外壁を高性能GW300mmで断熱し、木製サッシュとトリプルLow-Eガラスを採用した高性能大開口を持つT-house。さらに新開発の潜熱蓄熱建材を採用した革新的なパッシブデザインで、暖房エネルギー使用量の削減はできたのでしょうか?
 

<図9> 室内外温度差と暖房エネルギー使用量
 

内部取得熱を無視すれば、エネルギー消費量は室内外温度差に比例します。逆説的にいうと太陽熱を上手に利用した住宅では、室内外の温度差が大きい時期でもエネルギー使用量を抑制することができるということです。
 
図9に、T-houseの室内外温度差とエネルギー消費量の推移を示しました。2月下旬までは室内外温度差とエネルギー消費量の間に相関的な関係性が見られるものの、3月以降は外気温度が低くてもエネルギー消費量が抑制されている傾向が見て取れます。
 
これは3月になって日照時間が増え、日射熱取得量が増加したことに起因していると考えられます。豪雪地帯である三笠市でも、連続的に降雪日が続いて日射熱取得がほとんど期待できない期間は1月、2月の2ヶ月程度であり全暖房期間の3分の1程度に過ぎません。
初秋から晩春まで続く暖房需要期全体を考えれば、北海道のような積雪寒冷地でも太陽熱のパッシブ利用に関する可能性の高さが伺える結果となりました。
 
 
 

全暖房期間の省エネ率*1は55%を超過しました。
 
パッシブソーラー住宅の設計で最も大切にしなくてはいけないのは、温熱環境の快適性維持と居住者の健康への配慮です。一方で、エネルギー消費量を低減し環境負荷を抑制することも欠かすこができません。
 
図10はT-houseの総熱損失量と暖房に使用したエネルギー量(床下温水暖房に供したガスの使用量)の推移を示しています。
 

<図10> 総熱損失量と暖房エネルギー使用量の推移
 

期間総熱損失量が8,108 [kWh]であるのに対して実際に使用した暖房エネルギー量は3,588 [kWh]であり、内部取得熱の有効利用によって削減された暖房エネルギー量の割合は期間平均で55.7%という結果になりました。
 
外気温度と日射取得量から評価したパッシブソーラー住宅の適合性から判断すると、北海道はパッシブソーラー住宅に向かない地域であると言われています。しかし、断熱性能を強化し適切な蓄熱システムを採用することで、北海道においてもパッシブ・ソーラーハウスの建設が可能であることが明らかになりました。
 
[*1] 総熱損失量に対する、総熱損失量と実エネルギー投入量との差分の比を省エネ率と定義
 
 
日射熱を含めた実質的な熱損失係数は、計算値よりも33%高性能に。
 
熱損失係数 q値の定義には日射熱などの内部取得熱は含めませんので、q値を小さくしようとすると断熱材を付加して部位ごとの熱貫流率を小さくするしか方法はありません。これが断熱性能一本槍の熱性能競争に拍車をかけているのではないかと危惧しているところです。
 
一方で、実際の熱損失量は暖房エネルギー使用量と内部取得熱量の総和に等しいわけですから、内部取得熱量を加味した見かけのq値による評価は、より実態を反映した住宅性能の評価手法であると考えられます。
 
図11は、内部取得熱利用を含めたT-houseの見かけ(実際)の熱損失係数を予測したグラフです。実暖房量と室内外温度差から求めた見かけのq値は定義の値よりも33%ほど低い結果となりました。見かけのq値は、断熱性能に蓄熱性能を加味したパッシブ住宅の熱性能の評価指標として有効ではないかと思います。
 

<図11> 見かけの熱損失係数の予測
 

LOHAS住宅に必要な住宅の熱性能とは何か?
 
室内気候研究所が研究を開始したのは、日本が2度にわたるオイルショックを経験した直後でした。エネルギーのほぼ全量を輸入に頼る我が国では、機械設備やエネルギー消費に頼ることなく生命を維持し、さらに快適で健康的な居住空間を創生することが、当時から焦眉の課題として取り上げられてきました。おそらく現在推進されているZEHの普及活動とも軌を一にするものでしょう。
 
近い将来、高断熱・高気密住宅がようやく義務化されるという時代の流れの中で、さらなる住宅環境の高度化を推し進めるためには断熱と蓄熱の最新技術を融合させて、自然エネルギーをパッシブに利用する設計・施工技術の開発が必要になります。
 
T-houseの取り組みはその最先端技術を具象化して、効果を実証しようとするものです。高断熱・高気密住宅の進展で顕在化してきた冬季の過昇温問題など、健康を阻害しえない事象を抑制しつつ、太陽熱利用や夜間外気冷房による省エネルギー技術を確立する。
 
健康で持続可能な社会の実現に向けた取り組みを、さらに進化させる必要があります。
 

<写真5>厳冬期のT-houseエントランス
 
室内気候研究所 主席研究員
工学博士 石戸谷 裕二
■公式HP: http://iwall.jp
■ブログ:http://blog.iwall.jp

 
 

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